各仮想通貨銘柄は、自身のセキュリティーなどといったシステム改善のため、仕様変更をこれまで繰り返していますが、それによって以前の使用との互換性が無くなる大幅な変更をハードフォークと呼びます。この、ハードフォークがなされると、運営方針や考え方の違いからコミュニティーが分裂し新しい銘柄が誕生するなど、仮想通貨市場に大きな影響を及ぼすことがあります。

そして、それこそビットコイン(以下BTC)のハードフォークによって、2017年8月誕生したビットコインキャッシュ(以下BCH)が、5月中旬にハードフォークを実施することが発表されると、にわかに仮想通貨ユーザーたちがざわつき始めました。そこで今回は、BCHが誕生したいきさつとその特徴をおさらいするとともに、この度のハードフォークによってどのように変貌を遂げるのか、今後の展開予想とあわせ解説をしてまいります。

ビットコイン生みの親の理念を反映?BCHの誕生とその特徴

5月中旬にも!BCHがハードフォーク実施すべての仮想通貨は、執筆時点でもいまだそのシステムは発展途上にあり、「完成している」と断言できるものはない状態です。そして、市場をリードするBTCも例外ではなく、急激にユーザーが増えた2017年春頃から、「送金に時間がかかりすぎる」という指摘が噴出し始めました。現在でもBTCの改善点として多くの専門家が唱えている、いわゆるスケーラビリティ問題です。

2017年初夏に入ると、酷い時には丸1日経過しても決済がなされないなど問題は深刻化し、問題解消を目指して、取引データを圧縮して送れる「Segwit(セグウィット)」を実装し処理スピードを約2倍にしましたが、それでも爆発的に増えるユーザーによる取引決済に、対応しきれませんでした。この状態では、「誰しもが手軽に素早く決済できるツール」を目指してBTCを生み出したとされる、サトシナカモトも理念に反すると考えた一部BTC運営メンバーの中から、BTCの1ブロックあたりのデータ容量を従来の1MBから大きくすることで、増えるユーザーに対応しようという意見が出てきました。すったもんだの末ついにハードフォークと分裂が起こり、ブロック容量8MBとBTCの8倍の処理能力を持つBCHが、華々しく市場にデビューしたのです。

ブロック拡張で本家の32倍のスケールに!しかしセキュリティーは大丈夫なのか

今回のハードフォークの目玉は2つあり、まず1つ目が従来の8MBからさらにその4倍となる、32MBへのブロックサイズアップです。このブロック拡張については、BTCと分裂した時点からBCH運営にとっては、折り込み済の既定路線と考えられます。これによりBCHの決済スピードは、手数料・年会費などが無料な上、決済速度の良さから世界に約2億人のユーザーを抱える、「Paypal(ペイパル)」並の送金処理能力を、BCHが持つ可能性も出てきました。しかしその反面、ブロックサイズを大きくするハードフォークは、これまで築き上げたハッキング防止などといった、セキュリティーシステムとの互換性も、当然ながら無くなってしまいます。

この点が、BTC運営とBCH運営が衝突・分裂した最大の理由で、事実、BTCは誕生以来これまで一切ブロック拡張をしていませんが、同時に取引所に対するものを除けば、実害のあるハッキング被害を一度も受けていません。

もう1つの目玉!スマートコントラクトの実装!

スマートコンタクト実装とブロック拡張で何が起きるのか前述した、ブロックサイズ拡張に伴うセキュリティへの不安を払拭するのが、スマートコントラクトの実装です。スマートコントラクトは直訳すると、「賢い取引」となりますが実はかなり前から身近であり、例えば食堂にある食券機も、スタッフという第三者がが購入ユーザーとの間に入らない、スマートコントラクトの1つです。そして、仮想通貨に実装された場合、高度なテクノロジーで生まれた、ブロックチェーンと連動・決済契約を複雑化したうえで、マイナーなどといった第3者の介入なく、ブロックチェーン内で決済できるのです。

ただ、このスマートコントラクトについては、BTCの開発者グループも目を付け、当初プログラムとして組み込んでいたものの、不当な攻撃を受ける余地を残しているとして、結局リリース前に無効化したものです。しかし、それも7年前の話であり、BCHの開発者たちは現在ではブロックチェーン技術と、スマートコントラクトとの連動性を高め、攻撃を未然に防ぐためのタイムラグは十分確保できていると、強い自信をのぞかせています。また、過去にはスマートコントラクトを無効化したBTCコアディベロッパー、Johnson Lau氏も「ビットコインに再度スマートコントラクトを追加すべき」と、2018年2月の時点で提案しています。

ライバルはBTC?それともイーサリアム?

大幅なスケールアップで利便性が、スマートコントラクトの採用でセキュリティー強化と、より一層の非中央集権化が進み、一部ユーザによる権力の独占が防がれ、公平性が増していくと予想されるBCHは、今以上にユーザー数を増やしていく可能性が出てきました。また今回のハードフォークは、ブロック拡張に対する考え方で完全に袂を分かち、BCH側をして「我々こそがビットコインである」とまで主張しています。

同じくスマートコントラクトを実装し、BTCに次ぐ時価総額を誇っているイーサリアム(以下ETH)を、強く意識したものです。そして、業界の先駆者として長くトップに君臨するBTCが持つ運営ノウハウと、ETHが持つ特性をあわせ持つこととなるBCHが、今後BCH建てで他銘柄を売買できる取引所や、決済可能な商業施設などが増えることを前提に、BTCやETHを脅かす存在になってくると予想するアナリストもいます。また、BCHは昨年末に発表済であるロードマップによると、2018年11月にも更なるアップグレードがなされる予定です。

BCHは業界を牛耳れるのか?時価総額動向など今後を大予想してみた

前述してきたように、この度のBCHハードフォークは好材料になってくる変更点が多く、ほとんどのBCHユーザーは好意的に受け止めており、市場における利便性や安全性への評価が高まることによって、市場価値が上昇すると大きな期待を寄せています。事実今年4月時点では「1BCH=80,000円」ほどで推移していたレートも、ハードフォークをまじかに控えて買い注文が進み、執筆時点であるまさに5月14日のハードフォーク予定日前夜には、「1ECH=157,000円」辺りまでジャンプアップしています。

この値上がり傾向は、世界有数のマイニング集団であるAntpoolが先月、BTCマイニング収入の約12%ほどをバーン(焼却)中だと公表し、それが影響を与えていることも考えられます。バーンは、文字通り仮想通貨を燃やして使えなくする行為であり、少々力業ですが流通量が減少することから、対象銘柄の市場価値は上昇します。そして通常、当該仮想通貨銘柄にたいした動きが無くチャートが伸び悩んでるときや、マイナス材料が出て下降傾向にあるとき実施されます。

ただし今回は、好材料として捉えられている、BCHハードフォークの時期とかぶせてきたことに意味があり、度重なるアップグレードでの技術革新と、この大量なバーンによる通貨価値の向上がピッタリとはまった場合、BTCの時価総額はさらに大きく膨らむ可能性も出ている状況です。一方、ユーザーからは今回のBCHハードフォークが、コミュニティー全体の投票で決定したことではないとして、意思決定において合意性が低いのではないか、という指摘も上がっています。とはいえこれもごく一部からの声であり、現在好調であるBCHチャートに影響することはないという考えが支配的になっています。