マネックス証券を基幹事業に据える、マネックスグループ(以下マネックスG)による買収という形で、一応の解決を見たコインチェック事件ですが、このところのマネックスG株急騰により、再度スポットライトが注がれています。今回は、どうしてマネックスG株に買い注文が殺到しているのかを分析した後、他の仮想通貨関連企業の株価推移状況や、今後の動向についても予想をしてまいります。
マネックスGが発表した決算報告に驚きの声が殺到
マネックスGによる、コインチェック買収・経営陣の交代劇は、ネム流出事件に伴い同社が被害ユーザーに対し、総額473億円もの返金を余儀なくされ経営が悪化、ホワイトナイト的にマネックスGが現れ、豊富な資金力でコインチェックの経営改善・革新を進めるのだろう、というのが大方の見方でした。しかし先日、マネックスGが行った「傘下企業」コインチェック社の決算報告は、そういった予想を覆す衝撃的な内容でした。
というのが、報告によると、コインチェック社の2018年度の業績は、売上高626億円ながら営業利益たるや537億円に登り、前述の返金損失を差っ引いても税引き前純利益が、約63億円計上されていたのです。驚異的なのが売上高に対する営業利益率で、利益率が高いとされる美容・理容業界でも約5割あれば優秀とされる中、コインチェック社のそれは実に85.2%に上っていることで、まさに「荒稼ぎしていた」とすらいえる数字です。
コインチェックが身売りした理由
前述したことから、流出事件発覚後に経営陣が記者会見などで主張していた、「被害ユーザーへの返金は自社資本の日本円で賄える」は正しかったということになり、驚異的な利益率と純利益が返金後も残っていたことを考えると、何も身売りまですることはないように感じられます。しかしコインチェック社は、マネックスGのような総合的金融企業ではなく、仮想通貨の取引所としてのみ利益を得ていた企業です。
そして、事件後受けた業務改善・業務停止命令への対応を進めても、現経営陣のままでの取引所登録は困難であり、そうなると会社を維持することがまず不可能です。そんな情勢の中、事実上の吸収とは言え「業務提携」を持ち掛けたマネックスGの提案に、現経営陣は飛びついたという訳で、総退陣を余儀なくされたものの、創立者で事件当時の社長だった和田晃一良 氏始め、事故関連記者会見で矢面に立った大塚雄介氏元COOも、ちゃっかり同社執行役員に現在でも名を連ねています。
コインチェック買収でマネックスGが得たメリット
買収元のマネックスGは、システム構築や初期コストを投入することなく、事件勃発後の現在でも多くのユーザーを抱える優秀な取引所と、ずさんな管理体制への批判が集中したとはいえ、国内の仮想通貨ビジネスを牽引してきた旧経営陣のノウハウまで、労することなく丸ごと入手したのです。
そして仮想通貨ビジネスへの事実上の本格参入という行動は、同社の株式を勢い付ける、大きな起爆剤になっていきます。もちろん、マネックスGの強い企業体力がバックボーンにありますが、4月3日のメディアによるコインチェック社買収報道がなされた時点を境に、3月下旬までは350円ほどで引けていた株価は連日続伸し、同月16日の買収完了・新経営体制の発表日の終値では590円を付け、半月余りで約168%もの値上がりを見せました。つまり、マネックスGの企業時価は、この間だけで1.7倍近くに膨れ上がったということになります。
決算報告後の伸びもすさまじい!どこまで続くかに大注目
驚くべきはそれだけではなく、このマネックスG株の上昇は「2段ロケット」式で継続し、第1弾のコインチェック買収に加え、4月26日の決算報告後の伸びにも、目を見張るべきものがあります。コインチェックの買収劇は、確かに1つのサプライズとして捉えられ、株価上昇の材料となりましたが、いまだ一部被害者団体による賠償訴訟なども控えていたため、「経営上のリスクも高いのでは」という指摘もありました。
しかし前述したように、マネックスGによるコインチェック社決算報告の内容は、仮想通貨ビジネスの高い利益率を如実に示すインパクト性のあるもので、多少のリスクを負ってもその吸収により、マネックスG自体の業績拡大への起爆剤になりえるという評価の方が、高まりを見せることになります。
また、驚異の利益率を誇っていたコインチェック社の買収対価が、いくら不祥事があったとはいえ、わずか36億円であったこともこの流れに拍車をかけました。結果として、決算報告当日の終値で前日比+100円となる670円を付けたほか、開けて5月7日には同社通して約10年ぶりの水準となる、700円台を回復しました。その後利益確定のための売り注文などで一時値を下げたこともありましたが、現時点でも概ね700円を挟んだ堅調な取引を見せています。
コインチェックとは無関係?他の仮想通貨関連企業株も上昇している
コインチェック事件に端を発する一連の取引所への規制強化と処分によって、取引所運営企業の中には大きく株価が下落した企業や、仮想通貨ビジネスから撤退する企業もありました。しかし、捨てる神あれば拾う神もいるがごとく、処分の対象外と判断された取引所を運営していた企業の中には、株価が上昇傾向を見せる傾向が一部で出始めています。
そのいい例が、早い時期から仮想通貨交換ビジネスを手掛け、「処分の対象外交換事業者」として生き残った「リミックスポイント」で、年明け650~690円あたりを行き来していた株価が、小幅な下落をしつつも現時点では1,000円を突破する水準まで上昇しています。
また、近々に取引所をリリースすることが予定されているSBIホールディングス株も、取引所への改善命令が出されたあたりから上昇傾向を見せており、現在まで今年の最高値水準をキープしている状況です。もちろん、どちらのケースも単純に仮想通貨市場が置かれている状況が、株価に100%影響したという訳ではありません。しかし、コインチェックが引き起こした事件並びに、その後に起こった取引所淘汰で流れるユーザーに対する、優秀で安全な受け皿になりうるという評価から、各社の株式が上昇する大きな要因となった、とみている専門家もいます。
株価上昇の波は取引業者以外にも飛び火!下落傾向を見せたGMOインターネット株も!
前述した2社は、すでに仮想通貨交換業を営んでいるか、近々に手掛けていく予定の企業でしたが、ネット掲示板への投稿監視やカスタマーサービスを提供する、アウトソーシング企業イーガーディアンも、このところ自社株への買い注文が殺到し急騰しています。このイーガーディアンは事業の1つとして、仮想通貨取引用口座の開設時に、「本人確認審査の代行」を請け負っていることが好材料となった模様です。
また、傘下企業が金融庁からの処分を受けたGMOインターネットの株価は、立ち入り調査の実施が発表された直後の2月6日、1,629円という年初からの最安値を付けましたが、現在では同社が株式公開して以来の最高値水準に匹敵する、2,500円周辺にまでV字回復を見せています。この株価上昇傾向は一連の業務改善命令を受け、順調にGMOコインの経営健全化が進んでいるという評価に加え、5月に発表された同社決済において、前年比で149%となる約52億7千万円の経常利益が報告され、その原動力の一端を仮想通貨交換業が担ったという判断が、強い買い材料になっているものとみられます。
もちろん、まだまだ仮想通貨の市場レベルは、株式市場と比べてボリュームも小さく、関連企業も少ないため影響が及ぶ範囲はそう広くありません。しかし、今後メガバンクやヤフー、SBIホールディングスやソフトバンクなど、名だたる大手企業が参入を予定していることから、国内経済に大きな影響を及ぼす株式市場が、仮想通貨市場の動きに左右される傾向が、強まってくると考えられます。