昨今、サイト閲覧者のパソコンCPUの一部を使って、仮想通貨のマイニングを行うプログラム「コインハイブ」を使ったサイトを運用していたとして、複数の人物が警察に検挙されています。警察の言い分はウイルス供用の疑いで捜査しているとしています。これまでも日本各地の県警が捜査しており、そのうちの一人が今年3月に罰金10万円を言い渡されています。

しかし、専門家からは今回の警察の動きを疑問視する声も上がっています。特に他人のパソコンのCPUを利用すること自体を不正とみなすことに疑問を呈する意見が多いようです。

CPUに負荷がかかることを違法とするのなら、コインハイブに限らずあらゆる広告コンテンツが違法となってしまうからです。また、仮想通貨のマイニングをさせられるコインハイブ自体を不正とするのは、仮想通貨を嫌悪している人たちによる感情論では無いか、という声もあります。今回は、仮想通貨のコインハイブの仕組みや現在の法的位置付けについて説明していきます。仮想通貨における重要な技術、仮想通貨のマイニングについて理解を深めたい方は参考にしてください。

コインハイブとは?どんな仕組みのプログラム?

コインハイブ利用者が検挙今回話題になった仮想通貨のコインハイブは2017年9月に作られた、サイト運営者がサイト閲覧者の余っているCPUパワーを利用して仮想通貨のマイニングをさせるプログラムです。

コインハイブは専用のコードをサイトに埋め込むと、仮想通貨のMonero(モネロ)のマイニングを行うようになります。これにより得たMonero(モネロ)はサイト運営者が7割、コインハイブ側が3割に分配される仕組みになっています。仮想通貨のコインハイブはWebサイトに多く出回る広告表示の代替となることを目的として作られたプログラムです。

仮想通貨のコインハイブはオープンソースで提供されているので、個人のブログにも仮想通貨のコインハイブを埋め込むことが可能です。様々な活用方法が模索されており、仮想通貨のコインハイブをブログのようなWebページに埋め込む他、動画サービスの再生時間中に仮想通貨のマイニングをコインハイブで行なったり、ゲームをプレイしている最中に仮想通貨のマイニングをコインハイブで行なったりすることも可能になる予定です。

仮想通貨のコインハイブに関しては、広告に代替する新たな収益手段になるといった声がある一方で、仮想通貨のコインハイブはユーザーのCPUを勝手に利用するマルウェアであるという声もあります。

実際に、マルウェア開発者の中でコインハイブが急速に広がっているという報告もあるようです。悪意あるサイトに仮想通貨のコインハイブが仕込まれ、マルウェア開発者の収益源になっているといった問題が取り沙汰されています。

コインハイブの開発チームもこの状況に対応しています。サイト閲覧者などのユーザー側が明確に仮想通貨のコインハイブを了承した場合のみ、ユーザーのPCで仮想通貨のコインハイブが走る仕組みになるような仕組みを構築しようとしています。

実はコインハイブのようなプログラムは以前からもあった

今でこそコインハイブが注目されていますが、実はコインハイブ以前にもこういった「クリプトジャック」は行われていました。

2014年にはあるAndroidアプリに、ライトコインやドージコインを自動でマイニングするマルウェアが仕込まれたことがありました。また2013年にはゲームのプレイ中にプレイヤーのPCを使ってビットコインをマイニングするというものも出ています。さらに海外ではスターバックスの無線Wi-Fiを用いて、客のPCパワーでマイニングをさせていたということも発覚しています。

このように以前から発覚はしていたクリプトジャックですが、こういったプログラムとコインハイブの大きな違いは、コインハイブがオープンソースとして幅広いユーザーにプログラムを提供しているという点です。誰もが手軽に他人のCPUを使えるようになったという点が、コインハイブが世の中に与えた大きな影響です。

個人でマイニングを行うには、本来莫大な演算能力が必要になる

仮想通貨を新しく手に入れる手段の一つであるマイニングは、本来誰でも行えるものではありますが、実際は膨大な演算能力を持つコンピューターで行わなければコストに見合わないと言われています。

また、そのコンピューターを動かすための電気代など、コストも大きいものになるので、現状マイニングを行なっているのは資金力のある団体などになっています。

コインハイブのような、余っている他人のCPUパワーを借りてマイニングを行うプログラムが生まれたのは、そういった背景があるためとも言えます。個人でも他人のCPUパワーをシェアすることでマイニングが出来るということは、一部の団体による仮想通貨の寡占を防ぐことにも繋がります。

昨今では51%攻撃と言われる、悪意を持ってマイニングを行う人物がマイニングシェアの過半数を得て、本来不当である取引を正当化させるというサイバー攻撃の一種も現実化してきています。このような51%攻撃の抑止力としても、個人でマイニングシェアを持つ必要性は出てきています。

今回なぜコインハイブが違法とされたのか

違法or合法が注目されるコインハイブって一体なに?今回、コインハイブが埋め込まれていたサイトの運営者が摘発に至った主な罪状は、不正指令電磁的記録取得・保管罪と言われています。これは正当な理由がないのに、他人の電磁的記録、つまりデータを取得したことが問題視されているということです。

また警視庁は、閲覧者が気づかずにマイニングをすることで、閲覧者が余分に電気代を負担しなければならないことやパソコンの動作が重くなるという問題についても指摘しています。公式ツイッターでは閲覧者に無断でマイニングツールを設置した場合、犯罪になる可能性がある、とも述べています。

ただし、今回の摘発者が悪意を持ってコインハイブを設置していたかどうかについては疑問を残すところでもあります。摘発された方の多くは、そもそも違法である、という認識を持っていなかったとも発言しています。

これはそもそもコインハイブが、ユーザーの利便性を妨げるWeb上の有象無象の広告に対して問題提起を発している、という善意の上に成り立っているプログラムであるからとも言えます。

ただ、そういった善意を逆手に取った違法行為が、過去行われていたという事実も無視できません。今回の摘発事件は、こういったマイニングツールに関する法整備が進んでいなかったことが主な原因となっていると言えます。

マイニングツールに対するルール作りが早急に求められる

コインハイブは昨年から急速に広まっているプログラムで、誰でも簡単にマイニングを行うことが出来るという点で注目を浴びています。また、これに類似した競合サービスも登場しており、この分野はますます盛り上がりを見せることが有力視されています。

一方でその法整備は依然として進んでいないのが現状です。広告に変わる画期的な収益手段となるのか、ただの違法ツールとして終わるのかという分水嶺はこのルール作りにかかっていると言っても過言ではありません。

一方でコインハイブ側はユーザーの承認制に切り替えていくなど、その指針を固めていっています。便利なツールが犯罪に使われるか否かは、使い手の問題によるところが大きいですが、こういった開発者側の対応と共に、法整備も二人三脚となって進めていくことが求められています。

コインハイブはユニセフのオーストラリア法人では、寄付の方法の一つとして実際に稼働しています。ユーザーに事実をしっかり伝えることでうまく活用している事例です。日本でも早急にマイニングツールの位置付けをはっきりとさせ、この画期的な技術をうまく活かすような環境を整備していくことが期待されています。