6月29日に世界的コンサルティング会社「PwC」と仮想通貨先進国のスイスのクリプトバレー協会が共同で作成した「ICOに関するレポート」が発表されました。

このレポートによると、昨今の仮想通貨市場の冷え込みに反して、ICO(仮想通貨による資金調達)は依然としてブームが続いていると言われています。同レポートでは2018年5月までのICO調達額はすでに2017年の2倍以上あると語っており、かつ5月末時点で過去最高額に達していると報告しています。

2018年から申請されたICO案件は537件で、調達額は136億ドル(約1.5兆円)以上、一方で2017年の申請数は552件で、調達額は70億ドル(約7,700億円)以下です。一つのICOで調達できる平均額も前年比で2倍以上になっています。

仮想通貨プロジェクトは新しいものが出て来ていますが、一方でテッククランチは2018年中に失敗したプロジェクトはすでに1,000以上に上るというレポートを出しています。

今回、仮想通貨プロジェクトの栄枯盛衰を解説しながら、私たちが本当に投資すべき仮想通貨プロジェクトはどのようなものなのかについて説明していきます。

2018年中に最も成功したICO案件は?

2018年5月までのICOにおける資金調達総額が発表ICOの成功の一つとして資金調達額が挙げられます。この点で言うと2018年で特に成功しているICO案件は、ロシアのチャットアプリ「Telegram」とブロック・ドット・ワンが発行した「EOS」です。

Telegramの資金調達額は17億ドル(約1,800億円)ですが、EOSはその2倍以上になる40億ドル(約4,400億円)の資金調達に成功しています。この40億ドルのICOは史上最大と言われており、ICOが市況に関わらず活況であることを裏付けています。

こういったICOが盛んな国家として、スイス・アメリカ・シンガポールの三ヶ国が挙げられます。国や地域によってICOの位置付けが異なっていながら、三つに国に分かれているのは興味深いところです。

スイスはトークン(仮想通貨)を「資産」、「支払い」、「ユーティリティトークン」の三つに分類しており、アメリカはICOで発行されたトークンは「セキュリティトークン(証券)」として扱う中央集権的なシステムを導入しています。最後にシンガポールが属するアジアは、規制に統一感がなく「禁止派」から「推進派」に分かれている現状です。

日本企業でも2017年には12社のICOが行われました。ですが、2018年には金融庁の規制があり、日本ではICOでの資金調達がやりづらくなっているのが現状です。

ICOを行なっても取引所に上場できない現状

2018年から申請されたICO案件は537件と述べましたが、その全てが取引所に上場しているわけではありません。取引所に上場しているのはその約20%程度と言われています。

ICOを行なった仮想通貨が取引所に上場できない大きな理由は、上場における手数料が高額という点です。取引所によって差はあるものの、世界最大級の取引所であるBinanceは700万ドル(約7.7億円)とも言われています。

TelegramやEOSのような仮想通貨であれば、取引所への上場も問題ありませんが、全ての仮想通貨が多額の資金調達に成功しているわけではありません。

2018年第一四半期において、10万ドル(約1,100万円)以上の調達に成功しているICOは全体の約半数と言われています。裏を返すと全体の約半数は取引所に上場するだけの資金すら調達できていない可能性があるということです。

また、仮想通貨取引所は信用性を守るために、新規上場する仮想通貨プロジェクトに対して、セキュリティ基準を満たしているか、詐欺ではないかなどを綿密な調査を通して判断します。当然ながら取引所に上場するためには、これらの厳しいチェックを通過する必要があります。

これらの基準を満たせないICOは非常に多く、ICOを行なっても失敗しているプロジェクトが相次いでいる理由は取引所に上場できないから、というのも起因しているかもしれません。

ICO後に失敗している仮想通貨プロジェクトは1,000以上

一方で1,000以上のICOプロジェクトは失敗している?テッククランチによると、2017年の詐欺及び失敗したICO通過は10億ドル(約1,100億円)にも上るとのことです。数多くのICOが生まれては消えていっているということです。にも関わらずICO自体の注目度は高まっており、どの調達額は年々増加しています。

失敗とされるプロジェクトにはいくつかの特徴があります。まずはアバンダンウェアと言われる、もうサポートが行われていない、つまり終わってしまっているプロジェクトです。次にICOで資金調達だけを行い、その後資金を持ち逃げする詐欺プロジェクト。最後にノードがない、低トランザクションのプロジェクトです。

ICOには、取引所に上場したとしてもプロジェクトが終了してしまうものもあります。そのような仮想通貨に間違って投資してしまわないように私たちにはどんなことが出来るのでしょうか。

まずは、そのプロジェクトが最低限進捗しているかを公式Webサイトなどで確認する必要があります。ホワイトペーパーなどは他の仮想通貨からの流用で簡単に作ることが出来るため、Githubなどで開発状況をチェックしましょう。

ICO詐欺の問題を解決するDAICOという技術

このようなICO詐欺が頻発すると、市場の健全性が崩れる可能性があります。そこでイーサリアムの開発者であるヴィタリック氏が提唱する新しいICOの方法、「DAICO」が現在注目されています。

DAICOでは、その仮想通貨を保有しているユーザーが信任投票を行い、信任が得られた時点で開発チームが資金を引き出すことが出来るようになるシステムです。これによりICOで調達した資金を開発チームが持ち逃げすることはできなくなります。

詐欺的なICOや資金調達後に全くプロジェクトの進捗がないICO、また開発チームの予想を大きく上回って資金が調達されてしまったICOなどを防ぐ手段としてDAICOは有用であるとされています。

まだ構想中の技術ではありますが、このDAICOが実用化されれば、価値のある技術を開発しようとしているプロジェクトのみが残ることになるので、ICO市場の健全な発展に繋がります。

ICO投資家は平均約80%のリターンを得ている

ICOの中には詐欺コインが紛れている可能性もありますが、そんな中で投資家は2017年中にICOで平均約82%の投資益を上げているとボストン・カレッジが調査を行なっています。

この調査ではICOの価格は、取引所への上場後の16日間で平均182%上昇していると述べています。またICO価格とTwitterのフォロワー数やアクティビティには正比例の関係性があるとも述べています。

このようにICOで利益を上げている投資家がいる内は、資金調達側と投資家側双方にメリットがあるため、ICOは増え続ける可能性が高いです。一方で、資金面から取引所に上場することの出来ないプロジェクトも多く、そのままプロジェクトが頓挫してしまうこともあるのも事実です。

このようなプロジェクトの中には実際にサービス自体は素晴らしいものの、マーケティングがうまくいかず、ICOでも十分な資金調達ができなかった可能性があるものもあります。そのようなプロジェクトが資金面で苦慮しないような仕組みを作っていくことが、現在のICOでは重要になってきています。

ICO案件が増えていることは、市場にとっては喜ばしいことかもしれませんが、一方で消えていくプロジェクトも増えているという現状を認識する必要があります。ICOが、悪意を持つものに手っ取り早くお金を稼ぐ手段として利用されることは防がないといけません。DAICOなどの画期的な制度を取り入れながら、健全で新しいICOの制度を作っていくことが市場から求められ始めています。