メガバンクを筆頭に国内の大企業が参入、もしくはそれを予定している仮想通貨ビジネスは、今や日本経済におけるトレンドとなりつつあり、関連ニュースが毎日報道・リリースされています。そして、良いトピック・悪いトピックに関わらず、名前の挙がった関係企業の株式市場が、顕著な値動きを見せるようになっています。今回は、そんな企業株式の中でも目に見えて上昇傾向を示している銘柄について、買い材料とされたポイントに迫りつつ、今後の動向についても予想してみたいと思います。

株価上昇傾向にある企業その1 (株)アイル

ブロックチェーンビジネスへと株価の関連性深まるこの企業について、社名を知らないというユーザーは多いはずですが、こちらは現在拡大を見せているeコマース市場に伴い、複雑化を続けるバックヤード業務の効率化やIT化技術の開発及び、サービス提供を企業相手に行っている1990年創業のJASDAQ上場会社です。大阪の本社に加え、東京・名古屋・福岡・仙台に支店を構え、その売上額も毎年向上している優良企業で、取り引き先の企業数も6,600社に上っています。そして、2017年6月には、自身のeコマースサービスの品質向上と、セキュリティー強化を目的に、優れたブロックチェーン技術を独自開発していたシビラ(株)へ出資し、併せて業務提携を行いました。この業務提携に伴うブロックチェーン開発は順調で、自社サービスへの実装完了がまじかであるという情報が市場に流れたことにより、同社株は5月25日辺りから続伸し、現在2014年12月以来の高値水準で、取り引きされている状態です。

株価上昇傾向にある企業その2 GMOインターネット(株)

自社グループ企業が運営する、国内有数の仮想通貨取引所である「GMOコイン」が、去る3月8日にうけた金融庁による処分によって一時値下がり傾向を見せていたこちらも、5月24日から連日の高騰を見せ、執筆時点である28日月曜日の終値も前日比2.3%と、年初以来の高値水準をキープしています。GMOインターネット株の場合、金融庁の処分に対する対処が適切であったとの評価によって、徐々に値を戻したという側面もあります。ですが、ここ数日の上昇は23日の証券取引終了後に実施された、高性能かつ超小型な仮想通貨マイニングコンピューター「GMOマイナー B2」を、6月6日から販売するという発表が大きな引き金になっています。このB2は、7ナノメートルという小さなボディーに、最先端のプロセス技術が詰まった半導体チップを搭載した、量産型としては世界初となるマイニングマシンで、同社のマイニングだけではなく一般ユーザーへの販売もなされるとあって、非常に注目が集まっています。このB2投入に対する期待感こそが、現在の好調な株式相場を支える好材料になっており、いざリリース開始となると、さらに買い注文が殺到する可能性まであります。

株価上昇傾向にある企業その3 エイベックス(株)

このエイベックスについては、音楽・エンタメ関連ビジネスの国内最大手の1つですから、ご存知である方も多いでしょう。ちょっと仮想通貨と結び付けにくい企業ではありますが、こちらの場合仮想通貨関連といっても、前述の2社のように具体的に動いていることによる株価上昇というものではありませんでした。実は「仮想通貨交換業」や「電子決済システムの提供」などを定款に新たに加えるという、5月24日になされた発表を引き金として、翌日の取り引き開始直後から、同社株に買い気配が出始めたのです。

株式投資について、あまり詳しくないユーザーには、定款の変更という些細に感じられる発表だけで、株価が上下するなんてことあるの?と思う方もおられるでしょう。ですが、実は定款変更という事柄は、会社の行く末を左右するとして株主及びトレーダーにとって、その会社を評価する非常に大きなポイントなのです。「会社の憲法」とも呼ばれる定款には、絶対的記載事項と任意的記載事項という2社類があり、今回の件は「任意的記載事項の変更」にあたります。そして、その変更は会社の事業内容を位置付ける重大事項として、株式総会における特別決議を受けなければなりません。つまりエイベックスは、本気で仮想通貨ビジネスの取り組んでいく意思を、この時点でトレーダーでもある株主たちに示したのです。そして、株主たちがこの意思表示を「今後の事業発展につながる」と高評価したことから、株値が上昇傾向を示したという訳です。また、エイベックス株は現在、3,500円近くを付けていた全盛期からみると半値以上値崩れしていますが、今回のことが株価上昇に起爆剤になればという一種の期待感も、入り交じっている株式指標とみられます。

「ブロックチェーンに乗り出す」と匂わせただけで株式市場が動く時代に突入?

ブロックチェーンビジネスへの参入を公にし前述したように、企業によっては定款に事業内容として、仮想通貨に関するものを追加したという事実だけで、買い注文につながる好材料となっているように、今やブロックチェーン技術を自社の事業活性化に取り入れていくことを示すだけで、株価が上昇する場合もあります。ただし前述した3社の場合、アイルは2017年の段階で関連会社との提携を行い、すでにシステム面でかなり完成に近づいており、「参入間近」という点が評価の一因となっています。また、すでに自社で仮想通貨取引所を運営しているGMOの場合、4月4日に官報に掲載された第2期決算公告において、取引所運営会社で同グループの「GMOコイン」が、約1億円の黒字経営であることを公表した事実も、株価の大きなアップ材料です。加えて、エイベックスは海外での成功事例も多い、エンターテインメント決済専用のブロックチェーンプラットフォーム、「エンタメコイン」の展開を5月24日に発表し、2019年にサービスが開始される予定であるこちらに期待が集まり、株価を下支えしているとみられます。つまり、先行して技術開発を進めたアイルのような企業、もしくは地力と経験値に勝るGMO、個性ある仮想通貨ビジネスの乗り出したエイベックスなどといった具合いに、単に参入を公表するだけではなく何かしらの具体性が伴わないと、なかなか株式市場における有力な買い材料としてトレーダーに評価されません。事実、エイベックス同様定款変更を発表した企業はごまんとありますが、同社の様に株値が上昇傾向を見せているのはそのうちほんの一握りです。

もちろんなかなか株価上昇に繋がらない例もある

株式取引を行うトレーダーたちは、普段から取引をする企業株式について、人一倍企業動向に聞き耳を立て、決算内容や企業のこれまでの実績・企業内容とすり合わせて綿密に分析し、購入する銘柄を決定します。そして、仮想通貨ビジネスへの参入というトピックにも、敏感に反応します。ただ、計画の進行度や具体性が伴っていなかったり、何か強力な持ち味が無い場合での参入発表については買い材料としないばかりか、安直なものであると逆反応を見せ、場合によっては売りに出すケースもあります。とはいえ少し前までは、ネム流出事件のような不祥事や、51%攻撃に伴う盗難被害などによって、仮想通貨関連企業の株価は、木の葉のごとく揺れ動いていました。しかし、このところ参入発表という事実の公表だけで、マーケットが上下する傾向を見せたのは事実であり、仮想通貨ビジネスと国の経済を支える株式マーケットの関連性が、より色濃くなっているとみる専門家も多くいます。