日本や韓国、さらにビットコイン取引量世界1である中国などでは、このところ取引所に対する規制が強まっています。一方、その他アジア諸国でも仮想通貨市場は広がりを見せていますが、特に新興国では仮想通貨に対する法規制が追い付いていない国も存在します。そんな中5月13日、タイにおいて仮想通貨への法的規制枠組みが議会での採決を踏んで施行され同国における、仮想通貨市場の安定化につながるのではと期待感が高まる一方、若干の混乱を同国関係筋に与えています。

タイにおける仮想通貨普及状況と規制の流れ

タイ・約100項目に及ぶ仮想通貨規制枠組みを導入思いかえせば2018年2月、タイの中央銀行である「Bank of Thailand」他の銀行に対して仮想通貨のユーザーへの売却及び、購入を目的とした融資を禁止した時は衝撃が走りました。そして、「タイは仮想通貨取引を、全面禁止するつもりなのか。」という風評が、国内外のトレーダーなどの間で湧き上がる結果となります。なぜならタイという国は、非常に保守傾向の強いお国柄であるため、革新的なものの代表格である仮想通貨を、のっけから全面否定するのではないか、という考えが国内外で強まっていたからです。しかし、同国のタンティボラウォン財務大臣は、「仮想通貨の取引を(タイが国家として)禁止することはない、具体的な枠組みはすぐに明らかになる。」と風評を一蹴しました。その言葉は真実であることが、「仮想通貨取引に7%の付加価値税を課し、取引で生じた利益に15%の資本利得税を課す」とする、翌3月27日の閣議決定の発表で明らかとなります。つまり、税を課すと決定したということは仮想通貨を国内において、れっきとしたデジタル資産として認めるということです。

新法における主な規制内容と罰則規定

税制度が決まれば、次は流通に関する法規制の整備が必要となり、今回の新法はまさしくそれにあたり、仮想通貨に対する新法での規制項目は100に及び、取引はタイ国証券取引委員会(SEC)によって、厳しく監視・監督されることとなります。また、国内仮想通貨取引所及び個人取引業者は、すべてSECに届け出をし、認可を受ける必要があります。しかも、法施行から90日以内、つまり8月14日までに登録しなければなりません。さらに、罰則規定も苛烈で未登録の状態で取引をした業者には、最低50万バーツ(約171万円)もしくは、取引額の2倍以上のどちらか多い方を「罰金」として科せられるうえ、悪質と判断されれば最長2年の禁固刑が、科せられることもあります。規制項目の多さ・罰則の重さ共に、他国に匹敵もしくは厳しいものと言えますが、アジア諸国の多くが規制・禁止を始めている「ICO」に関しては禁止しておらず、今後規制をかけることはあっても禁止はしない方針です。

ICOを推進するデメリットと付加価値税免除の発表

今回施行された仮想通貨規制法は、投資家の保護だけでなく犯罪・マネーロンダリング・脱税に、仮想通貨が使われないように防ぐことが目的です。しかしながら、ICOについては前述のタンティボラウォン財務大臣をして、「正しい規制の中でICOを行うなら、むしろ支持する。」と述べていることでもわかる通り、むしろ国として推進していく考えのようです。ICOを禁止しないという新法施行によって、企業はさらに資金調達がしやすくなり、国全体の事業拡大を望める反面、詐欺的なICOに対する防御力は整っていないという訳ですから、「投資家保護」という新法の目的に対して、懐疑的な意見も出ているのが現状です。さらに、国家の金融当局が仮想通貨市場を規制するという名目で、税増収を狙ったものなのではないかという批判まで、国内から飛び出してきました。その声が聞こえたのか、タイ政府は自身が3月に閣議決定した、仮想通貨取引に伴う7%の付加価値税を、早ければ7月の法改正に伴い免除するとの考えを、新法施行の直後に示しました。これが実現されれば、仮想通貨取引時のトレーダーの負担は減り、対国内での取引量や新規参入者の増加につながります。

どこまでが税の適用範囲?業界に広がる戸惑いの原因は「不明瞭さ」

既に法施行も広がる戸惑いと今後の展開予測7月に法改正がなされたとしても、15%の資本利得税はそのまま課されますが、この資本利得税とは株式や国債などの購入価格と、転売価格の差による収益にかかる税のことであり、例えば株式証券の所持に伴う「株主配当益」ついては、課せられる税率が通常異なってきます。そして、ネオ(通貨単位NEO)に代表される「配当型トークン」があり、今回のタイ新法で規制を受ける、国内取引所や個人ブローカーたちの中には、それらを多く所有し利益を得ているケースもあります。枠組みと税制が確立していない仮想通貨の場合、果たして税率についてどの法律に従えばいいのかわからないというケースが頻発しており、今後改正に次ぐ改正も予想される中、関係者の中に困惑が広がっていることも否めません。また、新法では取引所で利益を得た場合、顧客自身が資本利得税を計上し、税務局に届けることになっています。しかし、ユーザーにまだまだ新法への理解が浸透していないため、各取引所のアナウンスと徹底に苦慮しており、同国最大の仮想通貨取引所である「BXタイ」のケースでは、同社がユーザーに変わって源泉徴収しているのが現状です。

税制含め、仮想通貨に対する法規制の確立は、同国における仮想通貨市場の安定化を促す手段ではありますが、タイの規制法施行は「中途半端だ」という辛口な意見も専門家たちの中からは出ています。事実、同国中央銀行である「Bank of Thailand」も、SECがもっと規制に対する立場を明確にするまで、仮想通貨とICOに対する自身の立場を決めるのは控える、という姿勢を現地メディアに示しています。

タイにおける仮想通貨の法規制による影響を予測してみた

前述したように、タイにおける今回の仮想通貨に関わる法整備はいまだ発展途上段階であり、SEC委員長も新法施行直後である15日には、早くも追加法の導入について示唆しています。しかし、同委員会事務局長は海外への仮想通貨投資について、今回施行された法律および今後追加するものの対象ではない、と述べています。このSEC幹部が示した見解と決定した15%という資本利得税率の高さ、さらにいまだ実態の見えにくい不明瞭な法整備が重なり合って、国内の資本家による海外取引所への仮想通貨資本流出が始まるのではないかと考えられています。

また、タイ・フィンテック協会のコンサルタントであるブーミラタナ氏は、ICO発行トークンからの税徴収は通常の取引所での発生利益と異なる扱いを受けるべきだと述べるなど、国内の仮想通貨運営者たちとともに、金融当局に対してICOトークンの課税プロセス・税率の見直しと、再検討を求めています。さらに別筋の専門家からは、タイ国内からICOによる資金調達をできるよう、投資家の権利を守らなければ、優秀なICO資本を海外市場から奪われてしまう、という指摘も上がっています。ただそれも、タイ金融当局が各方面から上がっているこのような意見・指摘に真摯に向き合い、善後策をスピーディーかつ的確に売ってくれば、当初の目的である投資家保護とともに、国内における仮想通貨・ICO市場の発展に繋がるものとみられます。そして、その流れは東南アジア随一の仮想通貨先進国として、タイが名乗りを上げる道筋になってくるという見方も、多くあります。