国内仮想通貨取引所、及び運営会社への規制が高まる中、空前の流出事件を起こしたコインチェックなどのみなし業者はもちろん、登録されている正規業者に対しても金融庁の大鉈が振るわれ、業界では淘汰が着々と進んでいます。そして、そんな規制の波は国内ユーザーに人気の高い海外取引所にも及び、中にはサービス停止を余儀なくされるところが増えてきました。そして、去る6月2日、取引額世界第7位の大手海外取引所であるHitBTCも、自社の公式HPとユーザーへのメールで、日本居住者向けサービスを停止すると発表し波紋を呼んでいますが、今回は少々事情が違うようです。
バイナンスが金融庁からの営業停止命令を受け撤退のうわさも
金融庁の規制強化のあおりを真っ先に受けた海外取引所と言えば、香港の本拠を構える世界最大の取引所であるバイナンスでしょう。取り扱い銘柄の豊富さと手数料の安さから、国内ユーザーからの人気も高いバイナンスですが、3月23日に金融庁から無登録のまま国内ユーザーと取引しているとして、警告を受けました。また、この警告に従わず、なおも無登録のまま営業を続けた場合、警察当局と連携し同社を刑事告訴するという、強い姿勢ものぞかせました。
投資家が損害を被る恐れがあると金融庁が判断したうえでの警告ですが、結果としてバイナンスを日本国内で利用することは、現状不可能であると考えられます。もちろん、金融庁の力が及ばない海外サーバーからの口座開設やログイン、送金などの取引は可能でしょうが、ハッキングなどの被害リスクを避けたいのであれば、あまり海外サーバー経由の利用はおすすめできません。
また、金融庁が発した警告への反応なのか、以前は日本語対応であったものが現在では非対応となっていることからみて、金融庁の本気度を理解したバイナンス運営陣に、日本からの撤退の意志もあるのではないか、といううわさまで出ています。仮に、バイナンスが日本撤退となれば、他の海外取引所にも波紋は広がるので、仮想通貨市場への影響は大きくなってくるとみられます。
クラーケンも日本居住者向け仮想通貨交換業サービスを停止
早くも、バイナンスへの苛烈な警告による余波は広がりを見せており、バイナンス同様みなし業者として、国内ユーザ―に利用されていた取引所「クラーケン」を運営する、ペイワードジャパン(株)も4月17日、日本居住者に向けたサービス提供を停止すると発表しました。停止時期は6月中とされてはいますが、既に日本居住者の新規アカウント登録を、全く受け付けていません。
海外の取引所ながら、日本円入金が可能なことで人気だったクラーケンですが、一連の金融庁の規制強化を受け、現時点で国内取引業者と新登録の認可を受けることが難しい、との判断に至ったようです。ただ、サービス停止に伴う運営の発表では、「全体のグローバルな成長をしっかりと掴んだ上で、将来日本に向けたサービスを再検討する」と発表していますし、海外滞在邦人向けのサービスは継続中であることから、急場をしのぐための一時撤退という見方もあります。
ついにHitBTCまでもがサービス停止!
さらに海外取引所への影響は続き、6月2日には国内仮想通貨ユーザーにとって、最後の砦ともいうべき海外取引所であるHitBTCも、日本居住者への取引所サービスの提供を「一時的に停止」することを発表しました。発表から2週間後には完全にサービスを停止し、以降利用するには日本居住ではないことを、KYCによって居住情報を提供し証明する必要があります。2014年にイギリスで産声を上げたHitBTCは、BTCなどのメジャー銘柄はもちろん、ISO公開されて間もない新進通貨も取り扱っていて、コアな国内仮想通貨ファンから支持を集めており、そのサービス停止の発表には各所から落胆の声が上がりました。サービス停止に際し運営からは、『あらゆる疑いを避け日本の資金決済法に準拠するため』という理由が述べられましたが、いかに金融庁によるバイナンスへの強い警告が威力を発揮したか、うかがい知れます。
サービス停止は本格進出への布石かHitBTCがインフラ整備に着手!
しかし、落胆の声も残る中、発表から1夜開けた3日、サービス停止はあくまで一時的なもので、同社の日本支社設立や、金融庁による登録・認可を受けるための下準備を開始しているとの発表がなされました。同社のブログによると日本支社スタッフの雇用から、合併・吸収によるライセンス獲得の可能性なども探っているようです。また、実名は明かされなかったものの、世界的に著名な国内法律事務所と提携するなど、規制をクリアするためのインフラ整備を順次実行中で、今年10月にも国内向けサービスの再開を目指しているとのことです。ただ、同社が掲げる10月のサービス再開という計画に現実味があるかについて、疑問の声も当然ながら上がっています。
日本居住者という点の解釈とカギとなる取引所買収への金融庁の対応
金融庁のいわば「やり玉」になり、警告を受けてしまったバイナンスはともかくとして、クラーケンにはすでに日本支社が存在しますし、前述したHitBTCも支社設立を進めているうえ、いずれも停止したのは「日本居住者」へのサービスについてです。つまり、日本人を取引所から追い出すことが目的なのではなく、バイナンスが受けたような厳しい警告を受ける前に一時的にとった、緊急避難的措置と考えることができます。
日本人ユーザーによる、仮想通貨への認知度は年々高まりを見せており、世界的な調査企業であるダリア・リサーチによると、日本の約11%という仮想通貨保有率は、現在世界最高水準に達しています。そんな潤沢かつ活発な日本市場を簡単に諦められず、再開について含みを持たせるため、クラーケンについては日本向けサービスの再検討を示唆していますし、HitBTCに至っては翌日にすかさず再開への動きをアピールしたわけです。
また、両取引所が実際に日本向けサービスを再開できるかどうかについて、懐疑的な意見も多いのですが、5月30日に日本国内での仮想通貨取引所登録をしているビットトレードが、シンガポールの資産家で実業家のエリック・チャン氏によって、5,000万USドル(約54億円)で買収されたことに対する金融庁の対応が、大きなカギを握ってきました。
というのも、買収によって国内登録取引所の運営権が、海外資本の手に渡るのは初めてのことであり、買収に関して同氏は「増加する(日本の仮想通貨)需要をとらえるには、規制され認可された『衣』を持つこと。」とコメントしているように、海外資本が日本の仮想通貨市場へ参入する最も簡単な方法は、認可国内取引所の買収だとする考えを暗に示しています。
これを金融庁が黙認した場合、買収の可能性について探っていると公表している、HitBTCに至っては言わずもがなですが、バイナンスにしろクラーケンにしろ、登録済国内取引所を買収で獲得すれば、日本在住者へのサービス提供を労せず再開できることになります。
さらに、取引所を運営している企業のみならず、巨大な資金力を背景に国内登録取引所が、海外資本に相次いで買収されるような事態に陥ると、ここまで金融庁が主体となって進めてきた、国内仮想通貨市場の秩序形成自体が崩壊しかねません。
はたして、金融庁はエリック・チャン氏による国内取引所運営を認めるのか、はたまた抵抗を見せるのかに注目が集まるところです。また、今回解説をした海外取引所運営企業による買収のケースでは、海外のプラットフォームとは完全に分けた運営が、日本向けの取引所には強いられることになるのではないか、という見方が有力になっています。