仮想通貨市場は、一時の爆発的ブーム期を抜け安定期に差し掛かりつつあるという見方が強まる中、2017年6月に登場したばかりの「EOS」が、いきなり時価総額のトップクラスに食い込んでおり、仮想通貨ユーザーの中で話題を集めています。4月第2週あたりからその傾向はより強まり、6月2、3日にかけて約18%の高騰を見せるなど、現在でも全銘柄中第5位となる、1兆円規模の時価総額をキープしています。

イーサリアムより優秀?EOSの特徴とは

ファンド設立とメインネット公開が引き金EOSとは、分散型仮想通貨プラットホーム並びに、発行されるトークンの通貨単位名であり、送金トランザクション手数料が一切かからないことと、同じ分散型アプリ「Dapps」を利用するイーサリアムよりも、処理スピードが速いとされています。ただ、元々ソフトウェア開発の資金集めのために発行されていたものであり、投機以外これまでは利用価値がないとされてきました。事実、EOS運営の公表しているホワイトペーパーに中では、「トークン自体に価値はない」と明記されているうえ、配布されたEOSは48時間以内に移動不可能になってしまいます。なぜ利用価値のないEOSに、ライトコインをしのぐほどの時価が付いているのか、それはズバリ「将来出てくる価値への期待」でしかなかったわけです。

EOSが高騰した理由その1 ブロックチェーン「EOSIO 1.0」のリリース

そんなEOSに対する将来的な期待感を後押しする確定的材料となったのが、6月2日に行われたEOS運営団体「Block.one」による、ブロックチェーン「EOSIO 1.0」の実装です。このEOSIOのリリースに伴い、これまでイーサリアムのブロックチェーン上において、ERC20(Ethereum Request for Comments: Token Standard #20)ルールに沿って行われてきた、EOSトークントランザクションは停止しました。つまり、この時点でEOSはイーサリアムから完全に離れ、独立したブロックチェーン通貨として確立したことになります。またEOSIOでは、通貨保有者による投票によってブロックの承認者が選抜されるコンセンサスアルゴリズム、「DPoS(Delegated Proof of Stake)」が採用されています。RiskやArkなどに代表されるDpos通貨は、BTCなどのPow通貨のようにトランザクション承認時、巨大な電力消費を伴う膨大な計算能力を必要としないことから、多くの設備投資などをせず企業がビジネスで活用しやすいメリットがあります。しかも、EOSの決済スピードはBTCが秒当たり2件足らず、イーサリアムでも秒あたり7件程度と言われる中、なんと秒当たり数百万件が処理可能という驚異的なスペックになっていますから、市場が利用価値アリと評価するのも頷けます。

EOSが高騰した理由その2 55億円ファンド設立の発表

オリジナルブロックチェーンのリリース同日、Block.oneは立て続けにブロックチェーン技術への投資機関であるSVK Cryptoと提携し、55億円規模の投資ファンドを設立すると発表しました。このファンドは、EOSIOを活用したソーシャルメディア・データ所有・データ管理・サプライチェーン・ロジスティクス開発など、DAppsプロジェクトへの投資が実施される見込みです。このファンド設立により、EOSIOのエコシステム開発が促進されるという好意的な見方と、前述したメインネット・ローンチの完了が、6月2、3日の上げ材料となったと考えられます。そして、今回の大幅な値上がりは、EOSを取り扱う世界各地の取引所において同時に起こっており、24時間あたりの取引高も3日午後3時の段階で約3,400億円と、BTCに次ぐボリュームになっていました。つまり一部の機関投資家の参入による恣意的な仕手戦ではなく、世界中の投資家によってEOSの将来性が評価された結果と言えます。

BTCはじめ時価上位通貨への興味がEOSに向き始めている?

急騰したEOSの特徴と将来性に迫るもう1つ、EOSへの注目度が世界的に高まっているデータとして、「Google」における仮想通貨銘柄に関連した「検索数の変化」について、ここでは挙げておきましょう。Google上での検索人気度を調査できるツールをリリースしている、「Google Trend」の調査によると、2018年に入ってからというもの、EOSの検索件数が昨年度比97%増と、飛躍的に伸びているとのことです。一方、「ビットコイン」という単語の検索回数は75%減少、時価総額第2位の「イーサリアム」は70%減、「ビットコインキャッシュ」も82%、2018年初頭に比べ検索数が少なくなっています。

また、年末には7.6%あったBTCウォレット作成の伸び率も、現在3.7%にまで落ち込んでいることからみても、市場の興味が既存のBTCやアルトコインたちから、EOSに向きつつあると言えます。もちろん、「注目度アップ=市場価格上昇」という訳ではありませんが、連動性が全くないとも言い切れません。

EOSが仮想通貨市場を牛耳る日は来るのか?大胆予想してみた

巨大な時価総額とすでに多くの利用ユーザーを抱え決済用コインとしての普及も進んでいるBTCは、EOSが目指している「プラットホーム」自体のビジネス活用拡大とは、少し違うステージにいると言えます。ですが、分散型プラットホームとして同じような活用を目指し評価されてきたイーサリアムの運営コミュニティーからすれば、このEOSの存在は無視できないほど大きくなっています。しかも、EOS運営はそのICOによって非常に大量のETHを獲得・保有しており、去る5月28日には、世界第4位の取引量を有する取引所である「bitfinex」において、EOS運営元がイーサリアムを直接取引所にて売却し、その結果ETHの価格が急落したと報じられました。

事実、ICO通貨の追跡データを公開している「SANbase」によると、取引周辺数日の間にEOSのウォレットから、138万ETHほどが移動していることから、EOS運営によって強い売り圧力が掛けられたとみるのが妥当です。実はEOSによるETHへの攻撃はこれまで何度も指摘されており、ETH自身今年度最安値を記録した3月18日にも、同じようにEOSウォレットから約41万ETHがBitfinexへ送金されています。さらに、EOSは現時点でまだ110万枚に近いETHを保有していると言われているため、今後も大量の売り圧力をかけてくることも予想されます。

EOSとETHは、分散型プラットホームにおいて、スマートコントラクトによるトランザクションが行われるという共通点があるものの、手数料が無料であるEOSに対して、ETHではブロックチェーン上で行われるすべての操作に対し、「ガス」と呼ばれる手数料を承認者に支払う必要があります。このガスは、決済や送金時に発生するという訳ではなく、ETHのブロックチェーンをIoT活用しようと企業が考えても、何かしらの作業をするたびに、いちいちガスを支払わなくてはならず、併せてガスを支払うためETHウォレットを作成し、一定量のETHを保有しておかなくてはなりません。

一方のEOSは同じように活用できる、優秀なプラットホームを持ちながら処理速度で数段ETHに勝り、しかも手数料が一切発生しないとあって「イーサリアムキラー」との通称まで付いています。仮にEOS運営が、さらなるETHへの売り圧力を強めた場合、両者の時価総額が徐々に迫ってくることも考えられ、そうなればスペックで勝るEOSが、分散型仮想通貨のトップに躍り出る可能性もあります。

ただし、現時点でEOSを購入できる国内取引所は存在せず、BTC・ETH立てなら購入できたバイナンスが国内での取引を停止しているため、今は少々入手困難です。また、BTCやETHのように買い物などの決済に、利用することが現状できないため、投機目的ならともかく一般ユーザーがEOSを入手するメリットは、正直なところあまりないと考えられます。