「東南アジア」といえば、現在成長著しいエリアとイメージされている方も少なくないのではないでしょうか?金融大国であるシンガポールは言うまでもありませんが、近年ではタイ、次いでベトナムなどといった国家も台頭してきています。

その中でもフィリピンは、注目されているとはいえ、まだこれから先というイメージがあるかもしれません。しかし、ここに仮想通貨が絡んでくると、フィリピンの立ち位置も一気に変わってきます。今回はフィリピンをテーマに、新興国と仮想通貨について考察していきます。

フィリピンの概要

個人間のスマホを活用した送金システムはフィリピンフィリピン(正式名称:フィリピン共和国)は東南アジアの南部に位置する、島国家です。首都のマニラを有するルソン島と、リゾート地としてのセブ島が有名ですが、大小合わせて約7000の島々で成り立っています。東南アジアの中でも、仏教職の強い他の国家と異なり、キリスト教文化が強く根付いています。西洋人の血が入っていることもあり、陸地の諸国と比較し、ヨーロッパ風の顔立ちをした人が多いのも特徴的と言えるでしょう。

第二言語として英語を取り入れており、他の諸国と比較して綺麗な英語を話します。このあたりは、比較的安価に語学留学が出来るところからもイメージしやすいかと思いますが、欧米諸国がコールセンターのアウトバウンドをフィリピンの企業で行うことで対応品質とコストを両立させていることからも、全世界からみて需要がある特質であると言えます。

全体的に平均年齢の若さが目立つ東南アジアですが、中でもフィリピンの平均年齢は23歳と際立っています。もう一つ、際立っているのが海外へ出稼ぎに行く人の数の多さです。フィリピンでは国内に仕事がなく、もしくは、より高収入を得るため、海外に働きに出る人の割合が非常に多く、なんとフィリピンのGDPの10%にあたる3兆円というお金が海外からの送金です。現在、銀行など既存のシステムを使うことによって発生している手数料は3,000億円を超え、機会損失として問題になっています。

フィリピンと仮想通貨

東南アジアの中でも地理的背景、歴史的背景も相まって、少し独特のスタンスを貫いているフィリピンですが、仮想通貨が絡んでくると、また別の側面が見えてきます。

まず、フィリピンは国家をあげて仮想通貨の導入、浸透に積極的です。国家の仮想通貨に対するスタンスは国々によって全くことなります。仮想通貨は国家の専売特許である通貨発行権を脅かすものであり、ゆくゆくは現在の世界の在り方の大前提となっている「主権国家体制」を根幹から揺るがしかねないものです。ゆえに、仮想通貨に対して否定的、敵対的なスタンスを取る国家が多いとしても不思議はありません。

実際、フィリピンも当初はビットコインをネズミ講扱いしており、否定的な立場をとっていました。しかし、フィリピンは2018年になって経済開発特区であるカガヤン経済特区にて、国内外の企業10社に対して、ブロックチェーンの事業を行うことを許可しました。日本のほかにも、アジア諸国から開発やマイニングに積極的に参入しようとしています。

フィリピンが仮想通貨企業の誘致に積極的な理由

フィリピンが仮想通貨企業の誘致に積極的な理由としては、下記のようなポイントにまとめることが出来ると考えています。

・税収入が見込める
カガヤン経済特区においてビジネスをすることを許可していますが、一方で低くない税率を課しており、そこから見込める税収入は大きな経済効果をもたらすことが期待されます。

・雇用を生み出すことが出来る。
カガヤン経済特区で仮想通貨ビジネスを行うにあたっては、現地人の雇用を行うことが必須化されています。そもそも国内に仕事がなく、もしくは海外で働いた方が収入を得られるからという理由で出稼ぎに行く労働者が非常に多いフィリピンにとって、国内にいながら高収入を得ることが出来る手段を確保することで、優秀な人材や貴重な労働力の流出を防ぐことが出来ます。

・仮想通貨を浸透させる下地が整っており、かつ浸透させる意義も大きい
先述の通り、フィリピンは国際送金で受け取っている金額が非常に多く、手数料も膨大です。一方で、仮に仮想通貨であれば手数料は現在の何十分の1、何百分の1といったレベルで抑えることが出来ます。それだけ浸透させる意義の大きい仮想通貨ですが、それだけでなく、既存の銀行などのシステムに比べ、浸透させる下地も整っています。

というのも、フィリピンにおいて「銀行口座を持っていない」というのは珍しい話ではありません。しかし、スマートフォンであれば先進国と同レベルで普及しています。したがって、個人間のスマホを活用した送金という仕組みはフィリピン人にとって受け入れやすいものであると同時に、受け入れる意義も大きいものであると言えます。若者が多いため、仮想通貨という概念の浸透も難しくはないのではないでしょうか?

日本のICOとフィリピン

個人間のスマホを活用した送金システムはフィリピン人に受け入れやすいフィリピンの成長性と仮想通貨の絡みは日本でも注目されています。以下のようなICOが「フィリピン」をテーマとして掲げ、良くも悪くも注目されています。

① ノアコイン

ビットコインがまだ10万円台だった頃から、「ビットコインを超えるコイン」「フィリピンの社会問題を解決するコイン」「官民が一体となって進めている国家プロジェクト」などと謳われ、情報業界で有名な泉忠司さんが広告塔になり広めていたコインです。出稼ぎ労働者の送金手数料にフォーカスされていました。

泉さんの影響力もあり、注目を浴びた仮想通貨ですが、フィリピン政府が関与を否定したことで騒動に。一時期は返金対応が行われるなど、「詐欺なのでは?」とも言われていましたが、2018年になって実際に上場。上手いタイミングで売買できた人は利益を出すことが出来たようです。現在はかなり価格を下げているようですが、今後の動向に注目です。

② Withコイン

2018年初よりyoutubeやSNSを通じて、大々的に拡散されたコインです。こちらはフィリピンの「カジノ」にフォーカスされていました。「binanceに上場確定」「月間仮想通貨に掲載決定」「5円を下回ることはない」「爆上げ間違いなし」などと煽られ、仮想通貨やICO自体が初めてといった方の購入も多く見られたようです。

一方で「詐欺だ」と冷ややかに見られる声も少なからず上がっていたものの、実際にHitBTCという取引所に上場。ただし、事前に告知されていた内容の大半が嘘であり、更に当初予定されていた発行枚数に対し何の告知もなく6倍のコインが発行されるなど杜撰な運営体制が目立ちました。

価格が大暴落した挙句HitBTCから撤退。運営から「カジノだけでなくフィリピンで流通するコイン」などと一転した主張が出始めていますが、あまりに悪質なケースであり、現在集団訴訟を起こす動きも出ているようです。こちらもある意味、今後の動向が気になります。

③ フィリピン・グローバル・コイン(PGC)

こちらもノアコインと同様に、出稼ぎ労働者の送金手数料を解決すべき社会問題ととらえ、開発されたコインです。フィリピンの現大統領、ロドリゴ・ドゥテルテ氏の実弟にあたる実業家、エマニュエル・ドゥテルテ氏と、日本の会社であるデジタルカレンシー株式会社が共同で設立した、J-PGCが通貨を発行します。

フィリピンにて社会問題となっている社会格差を解決すべくマイクロファイナンス(貧困層向けの低金利の融資事業)を普及させることも、目的として掲げています。
大統領の弟が絡んでいるということで信用を得ているプロジェクトですが、国家の長の親族が絡んでいることと国家的プロジェクトであることは別問題であることは念頭に置かなければなりません。

また、J-PGCの奥野取締役が5月に逮捕されるなど、順風満帆とは言い難い事情もあるようです。PGCが世界各地の取引所に上場するのはこれからの話ですので、こちらもどのような動きを見せるか注目に値します。立ち位置が似ていることもあり、ノアコインとよく比較されるため、どちらが価値を持つのか、果たしてどちらも価値を持たないのかなど、話題性には事欠きません。

フィリピンは仮想通貨とともに発展していくのか

東南アジアの一角で成長著しいフィリピン。他の国家に比べて仮想通貨への歩み寄りも近年急速になってきている印象を受けましたが、その背景にはフィリピンにとって特有の経済構造や、仮想通貨を受け入れやすい下地が整っていることがありました。

現在は投機的な要素も強く、とりわけ、ICOの資金集めの口実としてフィリピンの名前が持ち出されるなど、野放しには喜べない事情もありますが、今後仮想通貨が成長し、市場が健全化されていく中で、フィリピンの成長にどのように寄与できるか、ということが「仮想通貨と国家」を考察する上で、一つのケーススタディになっていくのではないでしょうか?