SPINDLEを始めとした、PATRON、HEROといった日本発のICOがことごとく不調です。インターネット上で大きく取り上げられたwithコインなどは、集団訴訟を起こす動きまで出始めています。
そのような中、情報業界の重鎮、蝶乃舞氏が「もう見ていられない」として新たなICO案件、RADIANを広めています。この仮想通貨は資産が「ぴったり1024倍になる」ことが確定しているとの触れ込みで広められています。本当に資産が1024倍になるのであれば、仮に1万円だとしても、1000万円以上、10万円であれば億万長者になれます。本当にそんな話があるのか、この仮想通貨に関して考察していきます。
蝶乃舞氏とは
蝶乃舞氏、本名高嶋美里氏は情報業界、インターネットビジネス業界の有名人です。早稲田大学理工学部を卒業しており、大手予備校の講師として就職しました。自身の物事を効率的に処理するメソッドを用い、高い評価を得ますが、体調不良で予備校を退職しています。
その後、子育てや子供の看病などに追われ、一般的な就業活動が困難な中で、在宅でできるインターネットビジネスに出会い、大きな成果を上げています。ネットビジネスのオンラインスクール「シビスアカデミー」は通信制の高校と連携しており、ネットビジネスを学びながら高校卒業の資格が取得できるような仕組みも構築されています。
自身で成果を出すだけでなく、塾や様々な情報商材の販売も手がけています。直近では、同じく情報業界の重鎮、パンダこと渡辺雅典氏と共同で、自動キュレーションサイト「Dreamrts」というプロジェクトを販売していました。今回、また新しいプロジェクトとして、仮想通貨RADIANを紹介しています。
蝶乃氏は仮想通貨のICO案件としてADAコインの拡散にも関わっています。「詐欺だ」と言われながらも大手取引所に上場し、初期参入していた投資家に大きな利益をもたらしたADAコインですが、今回のRADIANはどうなのか、見ていきたいと思います。
仮想通貨RADIAN(ラディアン)とは
RADIAN(ラディアン)はアメリカ人の天才数学者が考え出した仕組みを用いて、価値が1024倍になると謳われている仮想通貨です。現在、ICOの段階であり、どこか特定の仮想通貨取引所で購入できるものではありません。
発行元はコインサークルという会社で、総発行枚数などの詳細については現時点では明らかになっていません。大きな特徴の一つとして「証券型コイン」と呼ばれており、株式投資の「配当」に似た仕組みをとっています。
すなわち、RADIANを所有していることによって得られる配当や、値上がりよって得られた利益を、さらにRDIANの価値を高めるために使う、という形をとることで、RADIANの価値がどんどん上がっていくと銘打たれています。さらにRADIANは、ICOを終え上場待ちの、航空会社との提携し、マイレージとの交換を可能にしているVOYや、上場済で、eスポーツ市場の発展に目をつけているUKG、さらには日本で大々的に取り上げられているICO案件であるORCHIDといった仮想通貨との交換価値も持っています。
このように、事業と紐づいたコインと提携を繰り返していくことで価値の上昇を計るための仕組みをつくると言われています。
価値が1024倍になる仕組みとは
概要を見てみると、確かに優良なICOに見えなくはないですが、これだけでは1024倍になることが約束されているようには見えません。1024倍になるという「アメリカ人天才数学者が考え出した」仕組みについて、公表されている内容を見てみます。
先ほど、いくつかのコインと提携しているのを挙げてみましたが、加えて同じくコインサークルが発行する、「MINAコイン」というものがあります。このコインと連携することで価値を1024倍にしようというのです。
① RADIANのICOで大きな資金を調達する
② 調達した資金の1/4を担保に大物投資家から現金を調達
③ コインサークルが調達した金額でMINAコインを購入
④ MINAコインの価値が上がる
⑤ MINAコインを保有していることでマイニング報酬としてイーサリアムが得られる。
⑥ 獲得したイーサリアムを使って、コインサークルがRADIANを買い集める
⑦ RADIANの価値が2倍になる。
⑧ 同様の事を10回繰り返すことで1024倍になる。
簡単に言うと、調達した資金を担保に、投資家からお金をかり、MINAコインと相互に時価総額を上げながら、最終的に1024倍を目指す、という仕組みのようです。コインサークルがRADIANを買い集めることにより、市場に出回っているRADIANが減り、その価値が上昇していくと説明されています。
1024倍の仕組みの疑問点
この仕組みを見て、筆者が疑問に感じた点を挙げてみます。筆者は天才でも数学者でもないので理解が追い付いていないだけかもしれませんが、このスキームに疑問を持たれている方は参考にしていただければと思います。
・「アメリカ人天才数学者」とは誰なのか
まず、このスキームを考案したと言われる「アメリカ人天才数学者」の正体が一切わかりません。実名を出した方が、説得力も増すと考えますが、匿名で紹介されています。ビットコイン考案者の「ナカモトサトシ」氏すら匿名であることを考えると、仮想通貨業界において関係者が名前を出さないというのは、もしかしたら自然なことなのかもしれません。しかし、正体が判明すると命が狙われかねないナカモト氏と異なり、この「アメリカ人天才数学者」が正体をひた隠しにする必要性は薄いのではないでしょうか?
・どこかで資金が尽きるのではないか
仮にこのスキームを1巡させ、RADIAN(ラディアン)の価格を2倍に挙げることができたとして、このスキームにはどこかで資金的な限界が生ずるのではないかと感じました。とりわけ、「投資家から資金を調達する」部分が最もネックになるのではないでしょうか?
スキームの1巡目と、1024倍を達成する最後の操作である9巡目では投資家が用意する資金は512倍ほどの価格差が出てきています。もちろん、1人の投資家から集めるのではないのでしょうが、1巡目でどの程度の資金が必要になってくるかということはICOの成否によって大きく変わってくるはずです。仮にICO成功、(大きな金額が集まった場合)却って、最終目的を達成するための資金調達のハードルが上がってしまうのではないかと感じました。
・なぜ「10回」なのか。
このスキームを用いて、コインの時価総額を2倍、4倍、8倍と累乗で価値が上がっていくとして、その仕組みを「10回」きっかり行う合理的な理由がありません。もちろん、調達できる資金など、どこかで限界が生ずるのでしょうが、先述の通りICOでどの程度の金額集まるのかわからない以上、金額の限界値がどの時点で生ずるのかがわかりません。10回行える保証もなければ、11回目を行わない理由も見当たりません。
・「誰から」買い集めるのか
このスキームにおいて、コインサークルがRADIAN(ラディアン)を買い集めることで価値を上げると説明しています。買い集める資金はあったとして、買い手の反対側に売り手がいないと、売買は成立しません。スキームの1巡目で買うとなると、理論が正しいとすれば買値の2倍程度の金額で手放す人がどこかにいるということです。1024倍が確定しているコインを誰が2倍で手放すというのでしょうか?
大々的に広告されているICO案件は慎重に。場合によっては上場してからでも
そもそも疑問としてそれだけ優良なコインであれば、蝶乃氏が手間と費用をかけてプロモーションなどしなくとも、正しいコインの価値を理解できる投資家がそれを見つけ、買うことが出来るのではないでしょうか?これまでのICO案件とも共通して言えることですが、良いコインは過激なプロモーションを行わなくとも、自然と広まるというのが筆者の持論です。
蝶乃氏は業界でも有名な方なので、最初から詐欺と確定している案件のプロモーションなどは行ったりしないでしょうが、それを差し置いても「1024倍スキーム」には多くの疑問が残ります。踏まえたうえで、筆者の見解としては「本当に上場し、上記のスキームで2倍、4倍になるのを確認してから買えばよい」というものです。
最近のICOの傾向としては、ICO割れする傾向にあり、上場してから買っても十分にそのコインが成長した場合の利益を受け取ることが出来ます。実際に上場し、2倍、4倍と価値が上がっていくのを目にしたうえで参入しても、本当に1024倍になるのであれば、十分な恩恵を受け取ることができます。
ICOは成功すればリターンも大きいですが、失敗した時のリスクを考えると、上場してからの「後乗り」でリスクヘッジを行うことも覚えておいた方がいいかもしれません。