マイニングがビットコインの新規発行とブロックチェーンの仕組みを支えている
ビットコインなどの仮想通貨を手に入れる方法は、一般的には取引所か販売所で現金(他の仮想通貨)との交換で購入することですが、「マイニング(採掘)」というウェブ上の行為によってもビットコインを手に入れることができます。ビットコイン関連のニュースでよく目にするキーワードである「マイナー(採掘者)」もマイニングをしている人・集団という意味であり、マイニングはビットコイン発行の仕組みやブロックチェーンの安定的な維持と深く関わっています。
ビットコインを保有している人でもマイニングを実際にやっている人は少ないので、マイニングの具体的なやり方やどういった仕組みで報酬のビットコインを得られるのかは広く知られていませんが、ビットコインはじめ仮想通貨の取引をするのであれば知っておいたほうが良い仕組みです。マイニングはビットコインにおける唯一の「新規発行の方法」であり、マイニング以外の方法によってビットコインの供給量を増やすことはできません。またビットコインを採掘するマイナーがいなければ、ブロックチェーン上のブロックに記録されている取引情報の正しさを承認(検証)することができず、管理者不在のビットコイン(仮想通貨)のシステムを維持することが不可能になります。
ビットコインゴールド(BTG)がBTCからハードフォークして分岐した時には、「BTGのマイナーの数」が少なかったことで、BTGが十分に採掘されずブロックチェーンが安定的に生成されていないことが問題になりました。そのため、取引所のビットフライヤーやコインチェックは、まだ利用者へのBTG付与を行っていません。マイナーは仮想通貨の取引記録(ブロックの内容)の正しさを常に検証している存在であり、マイナーがいなければブロックチェーン上のブロックの生成が停滞して仮想通貨のシステムが機能しなくなってしまうのです。
ビットコインのマイニングの具体的な仕組みと方法
マイニングは日本語で「採掘」と翻訳されているため、貴金属の金・銀のように鉱山からツルハシで掘り出すような行為をイメージしやすいのですが、実際のマイニングは分かりやすく言えば「コンピューターによる複雑な計算の競争」なのです。ビットコインの過去から現在までのすべての取引は、ブロックチェーン上に記録されて公開されており、ビットコインのブロック(1MB=数百~数千回の取引記録の単位)は約10分間に1回のペースで生成され続けています。このブロックの取引記録の内容が適正なものかどうかを判断して承認するための「ハッシュ値の計算」は非常に複雑なのですが、この計算の正しい答えを導き出すためのコンピューター間の競争がマイニングであるということになります。
ブロック同士をつなげるハッシュ値を見つける複雑な計算は意味のある行為ではないのですが、その複雑な計算プロセスの連鎖(膨大な時間・PC・電力のコストの積み重ね)がブロックチェーンの改ざんを困難にしています。ランダムにnonce(32bitの任意値)をハッシュ関数に当てはめ、正しい答えがでるまで延々と試行錯誤するマシンパワーの競争が行われています。ブロックの取引記録の正当性を、ブロックチェーンのネットワークに対して一番初めに承認したマイナーに規定の報酬が支払われることになります。
なぜ自分の保有するコンピューターの有限のリソースを割いてまで、ビットコイン(仮想通貨)のマイニングに協力してくれる有志のマイナーがいるのかの理由は、率直に言えばマイニングの承認作業に成功すれば報酬がもらえるからなのです。
マイニングの報酬はいくらなのか?
仮想通貨のマイニング(採掘)の仕組みは、ブロックチェーン上の取引記録の正しさを承認することから、「PoW(Proof of Work:作業の証明)」とも呼ばれます。PoWでマイニングに成功すると、ビットコインのブロックチェーンの生成に協力してくれたお礼として一定のビットコインが支払われます。お礼(報酬)として支払われるビットコインの数量はあらかじめプログラムによって決められており、2017年現在ではマイニングに成功すると1ブロックあたり「12.5BTC」がもらえます。
現在のビットコイン(BTC)の価値は「1BTC=120万円以上」ですから、単純計算すれば1ブロックのマイニングで「1500万円以上」も稼げるなんてものすごい利益になるじゃないかとワクワクして興奮する人もいるかもしれませんが、当然ですがそんなに美味しい話はなく、現実には分散処理のごく僅かな分け前を貰えるだけなのです。少なくとも現在のマイニング市場は、採掘競争の激化で採掘難易度が非常に高くなっており、よほどハイスペックのコンピューターを大量に保有しているマイナー集団(マイニング専業のファーム)でないと、1ブロックすべての承認作業を単独で成功させて数十万円~数百万円の単位の報酬を得ることなどできないのです。一般的な個人ユーザーが所有するパソコンのスペックでは、24時間ぶっ続けでマイニングソフトを稼働させ続けても、残念ながら「1日数十円単位の報酬」さえ得ることができなくなっているシビアな競争環境があります。「パソコン代・専用機器代・電気代」を合わせると、少なくとも日本では月に数百円~数千円レベルの利益を出すことさえ極めて困難な状況なのです。
ビットコインのマイニング報酬は次第に減っていく
マイニングの承認作業に成功したマイナーに支払われるビットコイン報酬は現在「1ブロックあたり12.5BTC」ですが、実はこの報酬は固定されたものではなく、「約4年に1回の頻度」で半分に減らされていくことがプログラムによって事前に規定されています。厳密には、ビットコインのブロックチェーンが「21万ブロック」形成されるごとにビットコインの新規発行量が半分に減らされていくのですが、これを「半減期」と呼ぶこともあります。
ビットコイン運用の当初は、1ブロックあたりのマイニングに対して「50BTC」という高額報酬(今より相当に法定通貨換算の価値は低かったですが)が支払われていましたが、2012年頃には25BTCとなり、さらに2016年頃には12.5BTCにまで半減しています。2020年頃には1ブロックあたりのマイニング報酬は「6.25BTC」まで減る予測となっていますが、その時期になると一般ユーザーのPCによるビットコイン採掘はほとんど不可能に近くなっている可能性があります。そもそもビットコインは未来において永遠に発行され続ける仮想通貨ではなく、コードによって「発行上限数」が決められているのです。
ビットコイン開発者とされるサトシ・ナカモトは「中央集権的な法定通貨のマネタリーベース調整(通貨供給量)の恣意性」に対して非常に批判的であり、通貨価値の下落であるインフレ(通貨の供給過剰)を嫌っていました。ビットコインの理念は「法定通貨よりも価値が毀損されにくい仮想通貨」を作ることであり、インフレ抑止がかなり意識されています。そのために半減期でデフレ基調を作るだけでなく、発行上限数を「2,100万BTC」にあらかじめ設定して希少価値を演出しているのです。
2,100万BTCの発行後のビットコインの価値
ビットコインが無限に発行された方が、マイニング報酬が得られるマイナー(採掘者)が終わりなく承認作業に参加して、ビットコインの流通量が拡大し価値も上がるように思えます。しかし通貨発行量が多くなってそれに見合うだけの十分な需要が生まれなかった場合(大勢が供給量の多すぎるビットコインに価値などないと思い始めた場合)、ビットコインの価値そのものがインフレで大きく下落するリスクがあります。そこでビットコインのシステムは発行上限数を「2,100万BTC(20,999,999.9769BTC)」にプログラムし、「金(貴金属)」のような有限の特長を与えているのです。
2,100万BTCの発行が終了するのは2140年頃と予測されていますが、現在のペースでマイニングされると2033年の段階で総発行量の99%が発行済みとなりますので、実質的には2030年代にはマイニングによるビットコイン報酬はほとんど得られなくなっているでしょう。2,100万BTCの発行後の心配は、ビットコインの新規発行におるマイニング報酬がなくなっても、マイナーの個人・集団が引き続き「ブロックチェーンの承認作業」を続けてくれるのかということでしょう。ブロックチェーン上の取引内容の正しさをPoWで承認してくれるマイナーがいなければ、ビットコインはじめ仮想通貨のシステムを維持することは不可能になります。
ビットコインの新規発行がなくなっても、厳密にはブロックチェーンの承認作業が「無報酬」となるわけではなく、「送金・購入・換金など取引の手数料」を承認作業の報酬として受け取ることはできます。もちろん、マイニングよりも報酬額は減るのでマイナー全体の数が減る可能性は否定できません。
想定されるビットコインの未来としては、「取引手数料の報酬で必要なマイナー数は維持される」か「取引所が格安で承認作業を肩代わりする」かになるでしょう。100年以上先の未来の技術は予測困難ですが、「量子コンピューターの開発」などでマシンパワーが桁違いに大きくなり、仮想通貨の承認作業のコストが無視できるほど小さくなっている可能性もあります。新規発行が完全にゼロになるのは2140年の予定(693,000個目のブロック)なので、今この記事を読んでいる人が直面することはまずないですが、2030年代にビットコインの新規発行数が激減した時、価値がどう変化するのかに注目したいですね。