ゲーム開発会社が運営し、デジタルコンテンツを売買できる二次流通市場をつくることを目的としたコインがあります。今回は、それを紹介していきます。「ASOBI COIN(アソビコイン/単位:ABX)」は、2018年7月4日からICOトークンプレセールを開始する日本発の仮想通貨です。ブロックチェーンを利用して二次流通のマーケットプレイスをつくり、デジタルコンテンツを保護しながら安全に流通させるプラットフォームを構築するのが、その目的です。

二次流通市場「ASOBI MARKET」の役割

ASOBI COINは「遊び」という日本語をつけた日本発のコインです。ASOBIは運営母体の企業で、東京に本社があるオンラインゲーム開発会社「アソビモ」の社名に由来しています。目指しているのは、ゲーム内アイテム、音楽、動画、電子書籍のようなさまざまなデジタルコンテンツを、ユーザー同士で売買できる二次流通市場をつくることです。そのマーケットプレイスの名前は「ASOBI MARKET」と言います。デパートや家電量販店や新刊書店のような「新品」を売るお店や場所のことを「一次流通」と言います。それに対し二次流通とは、「古本屋」や「古着屋」や「リサイクルショップ」のような中古品を売買するお店や場所を指す言葉です。ネット上ではオークションサイトの「ヤフオク」もフリマアプリの「メルカリ」も、新品が出品されることもありますが、基本的にはこの二次流通市場です。

本や洋服や家具や家電製品は、買って使用して時間が経過すると、色があせたりしてだんだん古びて「劣化」していきます。しかし電子的なデータのデジタルコンテンツは何度利用されても全く劣化しないので、二次流通市場のマーケットプレイスで売買されても、品質的には新品同様です。もっとも、ゲームも音楽CDも映画のDVDも電子書籍も、新作としてリリースされてから何カ月も時間が経過するとその分、市場価値が目減りする「陳腐化」が起き、「中古品」として扱われます。

ASOBI COINがつくるデジタルコンテンツの二次流通市場「ASOBI MARKET」は、陳腐化は防げなくても「同じものがいくらでも複製(コピー)できる」ことは技術的に防げるという考え方に基づいています。なぜそれを目指すのかというと、無料で複製をつくられるのを防ぐことができれば、コンテンツの著作権など知的財産権を持つ個人や企業の権利をきちんと保護することができるからです。二次流通の収益の一部を権利者に還元することで、違法コピー事件と同一視されたりして、とかく非合法、アングラな闇市場と見られがちな二次流通が、社会的に広く認められる存在になる可能性が生まれます。

たとえば紙のマンガ本は新刊書店でいったん販売されたら、古本屋で何度売買されてもマンガ家に印税は1円も入りません。しかしASOBI COINの構想のもとでは、マンガ本をデジタルコンテンツの電子書籍にすれば、一次流通で買われても二次流通で買われてもマンガ家に印税が入るようになります。「紙の本の良さ」を抜きにして、純粋に経済的な視点で言えば、お金が得られる収益機会は多ければ多いほど好まれますから、マンガ家は本を出すなら紙の本ではなく、電子書籍で出そうと考えるようになり、デジタルコンテンツの種類が増え、その一次流通も二次流通もますます栄えることになります。プロのマンガ家で食べていくのは大変ですが、そうやって収入の状況が改善されれば、マンガ家志望者も増え、マンガ家の世界の底辺が広がることでトップレベルのマンガの質も上がっていきます。

ヨーロッパで興行収入が得られるオペラが偉大な音楽家を育てたり、アメリカで企業の広告が一流の芸術家や文学者を育てたりしたように、収入が得られる〃マーケット〃が確立すると、優れたクリエイターが輩出され、コンテンツの中身はレベルアップします。

ブロックチェーンがコンテンツの権利を保護

では、技術的にどうすればデジタルコンテンツの複製(コピー)を防ぎ、著作権などの権利を保護できるのでしょうか? ASOBI COINでは仮想通貨の基本技術ブロックチェーンを利用することで実現できると言っています。ブロックチェーン上に登録されたコンテンツ情報、権利情報、取引情報は、全世界にひろがるネットワークの上で分散管理されます。コンテンツに分散型セキュリティシステム(DSS)を実装させることで、第三者によるデータの改ざんやハッキングによるデータの流出が事実上不可能になり、コピーができなくなります。無料のコピーが氾濫しないおかげで中古価格が維持されるので、「ASOBI MARKET」のような二次流通市場では納得のいく値段で売ることができます。

たとえば、遊びあきたゲームのアイテム、聞きあきた音楽ファイル、読み終えたマンガの電子書籍などをASOBI MARKETで売ってASOBI COINのトークンを得たら、それを使ってASOBI MARKETで別のデジタルコンテンツを比較的安い価格で買うことができます。トークンは仮想通貨取引所で日本円のような法定通貨にも交換することができます。不可能だった再販売を可能にする二次流通市場で行われるのは中古品の売買と言うよりは、デジタルコンテンツの利用権譲渡、再利用と言った方が適切かもしれません。

ASOBI MARKETで取り扱うデジタルコンテンツとしては、ゲームのアイテム、ソフトウェア、電子書籍、音楽、動画、電子チケットなどが挙げられています。その権利関係の情報がブロックチェーン上でしっかり管理されることで、権利は保護されます。ライセンス料などの支払いもスムーズになります。

ゲーム開発会社が仮想通貨を自ら運営する

日本発のユーザー同士で売買できる仮想通貨「ASOBI COIN」ASOBI COINは日本発の仮想通貨です。運営会社のアソビモ(東京都豊島区)は2003年に設立され、オンラインゲームの運営事業をおよそ15年間続けています。資本金は4億8,050万円、従業員数は550人という中堅規模のゲーム開発会社です。スマホ向けのゲームアプリ、オンラインゲームのタイトルには「アヴァベルオンライン」「トーラムオンライン」「イルーナ戦記オンライン」などがあり、全タイトルトータルのダウンロード数はおよそ5,000万ダウンロード。ゲームプレイヤーは国内だけで100万人を超えます。App Storeゲーム大賞大作部門賞を受賞した最大のヒット作「アヴァベルオンライン」は累計約200億円を売り上げました。そんなアソビモが2018年、ASOBI COINで仮想通貨の世界に進出するわけです。自社のゲームタイトルではASOBI COINのトークンを利用できるようになると発表していますが、その場合、ゲーム内アイテムについては「1ABX=100円」のレートで、通常価格の半額で買える特典がつきます。

ASOBI COINはイーサリアム(ETH)ベースのERC20トークンで、発行上限は3億ABX。2018年7月4日午後3時に始まり7月11日まで実施されるICOトークンプレセールでは、発行上限の50%分の1億5,000万ABXが販売されます。残りの半分はリザーブで半分はバーン(焼却)になります。調達した資金の使い道は50%がソフト開発、30%がプロモーションとなっています。

発行上限の20%分はチーム、アドバイザーの保有分として確保され、そのロックアップ期間は180日となっています。10%分はリザーブに回ります。ソフトキャップ(販売金額の下限)は500万米ドル(約5億5,000万円)で、ハードキャップ(販売金額の上限)は5,000万米ドル(約55億円)となっています。なお、エアドロップ(トークン無料配布)も10%分(3,000万ABX)の枠内で別途行われる予定になっていますが、仮想通貨取引所への上場予定は非公開です。上場後の交換レートは、自社ゲーム内アイテムの購入について示している「1ABX=100円」のレートがめどになりそうです。

マックスむらい氏、イケダハヤト氏も参画

ASOBI COINのロードマップは明確で、2018年中にアソビモの自社ゲームや他社のゲームでトークンが利用可能になり、ASOBI MARKETがサービスを開始します。それとは別にゲーム内アイテムの二次流通プラットフォー「SWITEX JAPAN」もサービスを始める予定です。2019年になると分散型セキュリティシステム「DSS」のクラウドサービスがリリースされ、電子書籍、音楽、映画、チケットなどデジタルコンテンツの二次流通プラットフォームが提供されるというスケジュールになっています。さらにその先の2021年には、非中央集権型のオンラインゲーム「dAppsMMORPG」が提供を始める予定になっています。

提携先やアドバイザーの顔ぶれが豪華なことも注目されるポイントです。仮想通貨NAGA COINを発行するドイツのフィンテック企業NAGA GROUPと提携。ゲーム業界では有名人のApp Bank代表のマックスむらい氏をアドバイザーに迎え、むらい氏が手がける仮想通貨「@BLAST」と共同でイベントを開催する予定です。ブログメディア編集長、仮想通貨ブロガーとして有名なイケダハヤト氏や、仮想通貨関連のアプリ「Axie」を開発するAxie Infinity Inc.のCEOのTrung氏もアドバイザーに迎えています。ゲーム業界で大きな実績を築いたアソビモがバックにあるからこその人脈と言えるでしょう。

デジタルコンテンツの社会的に認められた二次流通市場をつくるというASOBI COINの構想は、それなりに意義があります。市場ができれば、トークンの実需も生まれます。バックのアソビモも信用ある企業です。しかし、二次流通がどれだけ普及するかという点では、まだ未知数の部分が少なくありません。