「プル型決済」を武器に、クレジットカードにとって代わる決済手段になることを目指す仮想通貨「Puma Pay」をご紹介します。「Puma Pay(プーマペイ/単位:PMA)」は2018年5月7日までICOプレセールが行われていた仮想通貨です。「プル型決済」という独自の方式によって、手数料などクレジットカード決済に伴う問題を解決し、仮想通貨によるキャッシュレス社会を実現しようというプロジェクトです。
クレジットカードに代わる決済方法を目指す
Puma Payといっても、ドイツのスポーツ用品メーカーPuma(プーマ)とは無関係です。商品の購入代金やサービスの代金の支払い、つまり「決済」の場面で使われることを想定した仮想通貨です。個人の日常生活でも、決済はさまざまな形で行われています。最もポピュラーなのがレジでの現金決済です。レジでは、あらかじめチャージした「電子マネー」による決済ができることもあります。「ポイントカード」の貯まったポイントで決済することもあるでしょう。クレジットカード決済は、翌月か翌々月の決められた日にまとめて口座から引き落とされます。払込用紙が送られてきて、郵便局やコンビニのカウンターにそれを出して現金で支払う決済や、銀行のATMやオンラインバンキングから相手の銀行口座に振り込む決済もあります。電気やガスなどの公共料金を毎月「口座引き落とし」で決済することもあります。他には、スマホの月々の電話代と一緒に支払えるタイプの決済もあります。
仮想通貨による決済と言えば、ビットコイン(BTC)はQRコードで決済できますが、それほど広くは普及していません。値動きが激しすぎるので敬遠されている面もありますが、まだ操作が面倒で、少額の利用では手数料も気になるところです。そこへ、Puma Payは新しい「決済」の形を提案しています。「革命的なシステムで、決済に伴うさまざまな問題を解決し、決済を近代化する」と言っていますが、何が「革命的」なのでしょうか?
一つは、Puma Payは改ざんがされにくく、詐欺や不正使用を防げるブロックチェーンを活用するために、信頼性が高くしかも従来の仮想通貨決済でできなかった「定期的な口座引き落とし」やクレジットカードのような「分割払い」ができることです。それを「標準化」と言っています。もう一つは、手数料をクレジットカードよりも安く抑えられることです。消費者の立場ではわかりませんが、カード決済にすると店が手数料を負担しています。手数料率は低いものでは1~2%から高いものでは10%、15%という例もあります。カード決済はその場で現金を受け取れず、後でまとめてカード会社から手数料を差し引かれて振り込まれます。そのため「いつもニコニコ現金払い」「カード払いは顔で笑って心で泣く」という状況になっています。カード決済だと請求金額を上乗せする店があるのはそのためで、それは明らかにカード会社との契約違反です。ニセ札事件が非常に少なく現金の信用度が高い日本は、世界に類を見ない「現金天国」です。店側は手数料以外にも、カード会社にカード端末のリース料、通信料、情報掲載料、広告料、キャンペーン協賛金なども払い、「販売促進費用」だと割り切っています。それらの大部分はカード会社の収入源になります。
一方、Puma Payは中間にカード会社などが存在せず、消費者と店が直接決済します。それをカード会社への集中を分権させるという意味で「分権化」と呼んでいます。手数料その他の費用を支払わなくていいので、店側はコストが節約できます。実際、手数料は完全にゼロにはなりませんが、カード決済と比べれば安く、「現金天国」にくさびを打ち込めます。ただし、カード会社に任せていた販売促進は自前で行わなければなりません。Puma Payは、クレジットカードのように口座引き落としや分割払いができること、カード決済よりも手数料が安いこと、取引所で即座に現金化(法定通貨化)できることなどを武器に「使えるお店」をどんどん増やすと言っています。それは実店舗、ネット通販、オンラインサービスの別を問いません。目指しているのは、日常の決済で、クレジットカードにとって代わる存在になることです。
「デビットカード」の仮想通貨版になる
Puma Payは決済に革命を起こすと言っていますが、革命には理論が必要です。それは従来の「プッシュ型決済」に「プル型決済」のシステムで対抗するということです。英語でプッシュ(push)は「押す」ですが、プル(pull)は「引く」で、全く逆方向です。現金決済で買い物をすると、現金と引き換えに商品を受け取ります。消費者は支払うべき金額を示され、サイフから必要な金額を出し、現金を「プッシュ」しておつりを受け取ります。これが「ブッシュ型決済」で、仮想通貨決済の大部分もそれにならっています。しかし、そうでない例もあります。それは電気やガスや電話や水道のような公共料金の支払いです。利用後、電力会社やガス会社や電話会社や水道局は計算して消費者に「前月これだけ使ったので、銀行口座から何月何日にいくら引き落とします」という通知を出します。その日、口座残高は確実にその分、減ります。これはお金を「引く」ので「プル型決済」です。カード代金や家賃や住宅ローンの支払いもこのプル型決済が普通です。
しかし、プル型決済には制約があります。口座引き落としにするにはあらかじめ申請書に印鑑を押して銀行に届けを出さなければなりません。公共料金もカード代金も家賃も住宅ローンも最初はそんな手続きになっているはずです。もっとも、銀行に届出をしなくても利用できるプル型決済も存在します。あまり普及していませんがプル型の決済方法に「デビットカード」があります。買い物をしてレジで銀行のキャッシュカードを出すと、クレジットカードのように店員が機械に通し、暗証番号を入れたら即座に銀行口座の残高から購入代金が差し引かれます。銀行直営の決済システムなので、あらかじめ銀行に届けを出さなくても利用できます。カード端末のリース料などはかかりますが、店側の手数料は1~2%程度で、クレジットカードのそれよりも安くなっています。
プル型のPuma Payは「デビットカードの仮想通貨版」を目指しています。プル型決済機能を持つ仮想通貨は他にはなく、Puma Payが初めてです。一回払いだけでなく分割払いもでき、家賃や新聞代などの定期的な口座引き落としもできるデビットカードにもビットコインにもない利便性を兼ね備えています。プル型は割り勘払い、他の人による決済金額の上限設定、承認、拒否(制限支払い)などにも柔軟に対応できます。その点で将来、キャッシュレス社会の主役になれる特徴を持った決済型仮想通貨だと言っています。
最低550万円必要なバブリーなプレセール
Puma Payは、2018年3月から5月7日までボーナストークン付きのプレセールが実施されました。購入通貨はイーサリアム(ETH)、ビットコイン(BTC)、米ドル、ユーロの4種類で、交換レートは当初1ETH=65,000PMA(1PMA=0.8円)で最終段階では1ETH=50,000PMA(1PMA=1.04円)でしたが、最低購入金額が当初米ドル換算で15万ドル(約1,650万円)最終段階で5万ドル(約550万円)という結構な高額でした。購入できたのは資産家か、投資ファンドなど機関投資家だったと思われます(1米ドル=110円で計算)。プレセールで十分な資金が集まったのか、予定されていた一般セール(メインセール)は中止になりました。このままでは投資家がPuma Payを手に入れられるチャンスは取引所上場後になりますが、予定は未定です。
ホワイトペーパーによると、PMAトークンは2018年1~3月期にバージョン1.0、2018年10~12月期にバージョン2.0がリリースされ、Androidウォレットが2018年10~12月期、Chromeウォレット、iOSウォレットが2019年1~3月期にリリースされるというロードマップになっています。ブロックチェーンを活用した「プル型」決済プラットフォームのPuma Payは、「高信頼性」「効率性」「柔軟性」「低コスト」などを武器にパーソナルユースでもビジネスユースでもメジャーな決済システムになることを目指していて、クレジットカードにとって代わるという野望を抱いています。提携パートナーとして12社の名前があがり、アメリカの経済誌「Forbes」にもとりあげられました。
とはいえ、決済型の仮想通貨はライバルがひしめいています。「プル型」は他に見当たらないとはいえ、ビットコインはそれなりに決済に使われた実績がありますし、リップルやライトコインも決済型です。日本で知名度が高いモナコインやOmise Goもそうです。ゲームなどジャンル限定でその決済に強いトークンもあります。Puma Payはそれらのシェアを切り取っていかねばなりません。ただ、プレセールの最低購入価格が高額だったために保有者の数が少なく、それが上場直後の売りラッシュを防げるメリットがあります。逆に、プレセールに買いたくても買えなかった人による買いラッシュによってレートが上昇する効果も期待できます。