「Solareum(ソラレウム/単位:SLRM)」は、2018年1月18日までICOトークンセールが行われたリヒテンシュタイン籍の仮想通貨です。ブロックチェーンやスマートコントラクトなどの技術を活用し、「地球環境のために」太陽光発電をはじめ再生可能エネルギーのための製品やサービスを売買するマーケットプレイスをネット上に構築し、再生可能エネルギーの振興を図るプロジェクトです。

再生可能エネルギーに由来

Solareum(ソラレウム)は、仮想通貨としての国籍をスイスとオーストリアにはさまれた小国のリヒテンシュタイン公国(法定通貨はスイスフラン)に置いていますが、CEOはアメリカ人でニューヨークに本拠地があり、実質的にはアメリカ発です。

名称の前半に「ソーラー(Solar)」とついているように、ソーラーパネルによる太陽光発電に関係がある仮想通貨です。ただし、対象としているのは太陽光発電だけでなく、風力発電なども含めた自然エネルギー、再生可能エネルギー全般に及びます。風力発電のエネルギー源の「風」も、バイオマス発電も地熱発電も水力発電も波力発電も、もとをたどれば太陽が地球にもたらすエネルギーに由来しています。名前の後半の「eum」はイーサリアム(Rthereum/ETH)のeumで、イーサリアムベースのERC20トークンです。注意していただきたいのは「Solarium(ソラリウム/XLRC)」という、たった1字違いで名前が酷似したトークンがあることです。ソラリウムは住宅やホテルにある「サンルーム」「日光浴室」という意味で、このトークンは太陽光発電や再生可能エネルギーに直接関係がある仮想通貨ではありません。単位名は全く違いますが、くれぐれも取り違えないようにしてください。

目指すはアマゾン・ドットコムのようなポータルショッピングモール

Solareumはベンチャー企業の社名でもあります。再生可能エネルギー関連の技術を持っているアメリカのスタートアップ企業です。同名のトークンを発行した理由は、世界的に再生可能エネルギーの開発・利用をもっと盛んにしていこうという意図があるからで、「地球環境のために」行うことが回り回って自社の利益につながるというものです。

具体的には、改ざんされにくくプライバシーを保護するセキュリティ性が高いブロックチェーンの技術や、契約をスムーズに自動的に記録するイーサリアムのスマートコントラクトの技術のような仮想通貨のテクノロジーを活用して、ネットワーク上に非集中型で透明性のある、再生可能エネルギー関連製品・サービスを取引できるマーケットプレイス(取引市場)のプラットフォームを構築します。それについてSolareumは「我々は再生可能エネルギーの分野で、アマゾン・ドットコムのようなポータルショッピングモールになる」と言っています。

マーケットプレイス上でのベルマーク?

マーケットプレイスでは企業でも個人でも、世界中にある電力のサプライヤー(供給者)や機器の製造元など、協賛先の再生可能エネルギー関連企業からさまざまな製品やサービスを購入することができます。たとえば発電用ソーラーパネル、暖房用や給湯用のソーラーシステム、風力発電機やその関連機器はもちろんのこと、供給する電気エネルギーや熱エネルギーそれ自体も売買の対象にする、としています。再生可能エネルギーによる電力の供給者と、その電力を購入したいユーザーの間をつなぐ卸電力取引の可能性についても言及しています。

マーケットプレイスで製品やサービスや電気や熱を購入したら、購入者は販売者である協賛企業からその購入金額に応じてSolareumのトークンを受け取れます。まるで家電量販店などで買物をするともらえるポイントのようなものですが、「再生可能エネルギーの開発・利用に協力した見返りの報酬」という形をとっています。Solareumは、トークンの販売で協賛企業から得た収益を「地球のために」再生可能エネルギーの技術開発を支援し、その活用を促進する振興事業に使うとアナウンスしています。

しくみとしては、製品のパッケージについている「ベルマーク」を切り取ってPTAや地域の自治会で集めて送るとその分、協賛企業からもたらされる協賛金によって国内のへき地や災害被災地、途上国に教材等が贈られるという教育支援事業を行う日本の「ベルマーク教育助成財団」に似ています。製品やサービスを購入してSolareumのトークンをもらうと、「地球のためにいいことをした」という気持ちになれる、でしょうか?もちろん、Solareumはベルマークと違って仮想通貨ですから「転売」や「換金」ができます。ホワイトペーパーによると、Solareumのトークンはビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、モネロ(XMR)、ネオ(NEO)、ライトコイン(LTC)など14種類の仮想通貨と交換することが可能で、クレジットカードやデビットカードでもトークンが購入できるようにすると言っています。

イメージが良い地球環境関連の仮想通貨だが

再生可能エネルギーの製品やその振興を図る仮想通貨「Solareum」現在、発電方式では世界の主流の火力発電は、地球温暖化をもたらす二酸化炭素など温室効果ガスを発生させます。原子力発電は「チェルノブイリ」「フクシマ」の事故で環境中に放射性物質を放出し、地球上に人が住めない地域をつくり出してしまいました。それに比べると太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーは「クリーンエネルギー」「地球環境にやさしい未来のエネルギー」と呼ばれ、イメージはきわめて良好です。Solareumのイメージもまた同様です。

企業としてのSolareumも、CEOのケネス・リース(Kenneth Reece)氏は、ニューヨークの国連本部に加盟国の青少年を集めて開催される「国連ユース集会」で地球環境問題、クリーンエネルギーに関する講演を行うゲストスピーカーを務めています。アメリカの著名なベンチャー投資家ジャスティン・ラリー氏はリース氏とともにSolareumの共同創業者に名を連ねており、トークンを発行する仮想通貨のプロジェクトも投資ファンドの支援を受けています。

2009年の国連総会で改めて「国際母なる地球デー」と定められた2018年4月22日の「アースデー(地球の日)」は、Solareumにとっても特別な日でした。プレセールを2017年12月25日から2018年1月10日まで、ICOトークンセールを2018年1月11日から1月18日まで実施しましたが、それとは別にアースデーにからんで売出しを計画し、Solareumのウェブサイトで申し込めばICOした時と同じ1SLRM=0.70米ドル(約77円)のレートでトークンを購入できました。Solareumは最大で6,000万SLRM(約4,220万米ドル)の資金調達を見込んでいました。

伸び悩む上場後の値動き

しかし、Stocks.ExchangeやForkDelta、BiteBTC、RightBTCなど仮想通貨取引所に上場した後は、ICO時の1SLRM=0.70米ドルのレートに一度も達していません。5月22日につけた最高値は0.24米ドル(約26.4円)にとどまり、現状では1SLRM=0.066米ドル(7.26円)付近に張りついて、0.70米ドル(約77円)のICO価格の10%にも届きません。そのことが、上場前に購入した投資家の不満を呼んでいます。

イメージはいいはずなのに、どうしてSolareumはこうなってしまったのでしょうか? 再生可能エネルギー関連の仮想通貨には他にGreenX(GEX)、Swytch(SET)、SunMoney(SMT)、Cryptosolartech(CST)などが公開されていますが、どれも社会的意義や将来性があると前評判が良くICOは成功していますが、上場後の値動きはパッとしません。「マイニング(採掘)で電力を浪費する仮想通貨に地球環境を語る資格はない」という意見も聞かれますが、それを抜きにしても、ビジネスとしての短期的な収益性に疑問符がついています。

「エネルギーをつくることで世界を変える」「我々は再生可能エネルギーのアマゾンになる」と言っているSolareumですが、地球環境にやさしいクリーンなエネルギーと言っても「きれいごと」だけで済まされないのもこの世界の現実です。たとえば日本では、政策の後押しで太陽光発電所や風力発電所はつくったものの、出力が天候に左右され一定しない点がネックになり電力会社が電気を買ってくれず、設備を持てあましているところがあります。電気を買ってくれたとしても買取価格は年々下がる一方で、太陽光や風力の発電事業者の経営はなかなか軌道に乗りません。

これでは、Solareumが構想するように再生可能エネルギーのためのマーケットプレイスをつくったとしても、ビジネスとしての先行きは不透明です。「環境」関連のビジネスと言っても電気自動車(EV)などと同列には論じられません。宇宙開発などと同じように「夢もあって未来は明るい。けれども現実は厳しい」という分野だけに、仮想通貨の投資家も短期的な視点だけでは成果が得られにくいことを覚悟する必要があります。

なお、ベルマーク教育助成財団は文部科学省が所管する公益法人ですが、Solareumには収益の使い途を監視したり監督したりする団体がありません。国連はCEOの個人的なつながりがあるだけで、Solareumは「国連NGO」ではありません。ホワイトペーパーが言うことを、信じる以外はありません。