「Komodo(コモド/単位:KMD)」は2016年9月に公開された中国発の仮想通貨です。投資家同士が仮想通貨取引所(集中型取引所)を利用しなくてもトークンをダイレクトに交換できる「アトミックスワップ」という独自の技術があり、それを活かして将来の活路を見出そうと今、取引所(分散型取引所)を開設することを計画しています。
「アトミックスワップ」とはどんな技術か
Komodoはインドネシアにある島の名前です。コモド島では人間より大きな大型は虫類「コモドドラゴン(コモドオオトカゲ)」がジャングルでも街の中でも我が物顔にのし歩いていて、映画のような「恐竜の島」を思わせます。それが世界から「怖いもの見たさ」の多くの観光客を集めています。
仮想通貨のKomodoが、大トカゲのように怖がらせる対象は何かというと、日本の「コインチェック」「ザイフ」や中国の「バイナンス」のような仮想通貨取引所です。なぜならKomodoはそれ自体、取引所を不要にしてしまうテクノロジーを備えているからです。簡単に言えば、仮想通貨の投資家Aさんのウォレットから投資家Bさんのウォレットへ、取引所を通さずにトークンをダイレクトに交換させることができます。それを「アトミックスワップ」と言います。英語でアトミック(Atomic)は「原子の」、スワップ(swap)は「交換」という意味です。「アトミックスワップ=原子の交換」とは、いったい何なのでしょうか?
ビットコイン(BTC)とライトコイン(LTC)というように、異なる仮想通貨にはそれぞれ異なるブロックチェーンがあり、本来は水と油のように互換性がありません。仮想通貨取引所ではどうするかというと、仮想通貨Aの価値をブロックチェーンごと引き取り、交換レートで計算した仮想通貨Bの価値をブロックチェーンごと渡します。「仮想通貨の価値には、それと切り離せないブロックチェーンがついてくる」と理解してください。
それがアトミックスワップの技術を使うことでブロックチェーンの互換性が生じ「相互乗り入れ」できるようになり、異なるトークン同士の「価値の交換」が可能になります。なぜそうなるのかは非常に複雑で難解なので省略しますが、高等な数学や物理学に属する理論や技術によって、可能になっています。ただし、仮想通貨なら何でも、ウォレットからウォレットへダイレクトに「P2P(ピア・ツー・ピア)」のトークン交換ができるわけではありません。その条件は「両通貨のハッシュ関数が同じであること」です。ハッシュ関数について説明すると数学の難しい話になってしまいますので、「仮想通貨のハッシュ関数が同じなら、ブロックチェーンの相互乗り入れと、取引所を通さないダイレクトな交換が可能になる」と思ってください。
さて、その条件に適合しアトミックスワップの技術で交換可能なことが確認された仮想通貨は、Komodo(KMD)以外にビットコイン(BTC)、ライトコイン(LTC)、Vertcoin(VTC)、Viacoin(VIA)、Decred(DCR)があり、スマートコントラクトの利用が条件ですがイーサリアム(ETH)とビットコインでも交換可能と確認されています。メジャー級はビットコイン、ライトコイン、イーサリアムの3種類ですが、特にビットコインとイーサリアムは交換の需要が大きいペアです。さらにKomodoは米ドルや日本円のような法定通貨とも「PAX」の機能で交換が可能です。ちなみに取引所を通さない直接交換は「交換レート」が決まっていません。取引所が発表するレートなどを参考に、当事者の投資家同士で話し合って交換レートを決めます。希望するレートの食い違いが大きくて差が埋まらなかったら、取引は不成立です。
「アトミックスワップ」技術の長所と短所
アトミックスワップで取引所を通さずダイレクトに仮想通貨を交換するのは、どんなメリットがあるのでしょうか? 最大の長所は取引所に仮想通貨の資産を一時的に預けることで発生する危険が避けられることです。ブロックチェーンはネット上の「分散化」でリスクを避ける技術ですが、逆の「集中化」を余儀なくされる場所が仮想通貨取引所です。もし、東京の築地市場が大火事に見舞われたら、高級魚の取引はそこに集中しているので首都圏の高級魚料理専門店は営業できなくなる恐れがあります。
それが取引の「集中化」のリスクです。それと同じように仮想通貨の交換取引が取引所に集中すると取引所に「何かあった時」が怖いのです。「何か」とは、外部からの不正アクセスやハッキング、内部犯行、天災によるシステムの物理的破壊や停電、運営者の経営破たんや営業停止処分などです。特にハッキングは「コインチェック事件」のように、投資家が一時的に預けていた仮想通貨の資産を不正送金でごっそり盗まれてしまうような恐ろしさがあります。それが、投資家同士をダイレクトに結んだ仮想通貨の交換であれば、資産を取引所に一時的に預ける必要がなくなり、取引の集中化で生じるリスクはなくなります。
一方、デメリットもあります。直接交換可能な仮想通貨が10種類にも満たず少なすぎることもそうですが、「可能」のはずでも交換できないケースもありえます。通貨の間でデジタル署名やタイムロックなど細かな「ローカルルール」が異なってそうなる場合もあれば、原因が全然わからない場合もあるそうです。
それでは安心して交換ができません。さらに重大な短所は「手数料が高い」ことです。というのは、ブロックチェーンに互換性が生まれ「相互乗り入れ」ができると、ビットコインのブロックチェーンが優先的に利用されるからです。以前からビットコインの決済手数料の高さは問題視されていますが、ビットコインのブロックチェーンで仮想通貨を交換すると、ビットコインの高額な手数料がそのまま適用されてしまいます。
なお、Komodoには仮想通貨Zcash(ZEC)の暗号化技術「ゼロ知識証明(zk-SNARK)」を受け継いだ匿名化技術「Jumbir」や、ハッキングに強い「合意形成アルゴリズムdPoW(Delayed Proof of Work)」のような技術があり、取引の匿名性、セキュリティ性が非常に高くなっています。それは技術的には優れた点ですが、脱税目的の資産隠しやマネーロンダリングに悪用される恐れがあり、社会的に見ればデメリットとも言えます。
Komodoが自ら取引所運営に進出する理由
このように「アトミックスワップ」による仮想通貨のダイレクト交換は長所も短所もありますが、Komodoの開発チームは短所を補おうと仮想通貨取引所「BarterDEX」の開設を計画し、現在は開発中でテスト段階です。冗談ではありません。取引所と言ってもそれは「分散型取引所(DEX)」で、そのタイプはすでに営業中の「IDEX」がよく知られています。コインチェックやザイフやバイナンスのような「集中型取引所」と違い、交換レートの相場情報を示して、投資家同士のダイレクトな取引(ペアトレード)をシステムがアシストする形をとるため、取引所が資産を一時的に預かることはなく、それによるリスクがなく安全です。他通貨のブロックチェーンの利用による手数料も発生しません。Komodoでは、アトミックスワップの技術を活かした分散型取引所の開設に将来の活路を見出そうとしています。
Komodoには新しい仮想通貨をICOさせる機能「dICO(分散型ICOプラットフォーム)」も備わっていて、2017年に「Monaiza」、2018年に「Utrum.io」「blocknation」をICOさせた実績があります。ICOに参加する投資家にとってはそのトークンの取引所上場は大きな関心事ですから、Komodoの中でICOと自前取引所「BarterDEX」への上場がパッケージになっていれば、大きな強みになります。
事実上標準になれば天国、なれなければ地獄
Komodoの発行上限枚数は2億KMDです。公式ウォレット「AGAMA(アーガマ)」があり、Mac、Windows、LinuxなどPCのOS全てに対応していますがモバイル版はありません。投資家はトークンを1万KMD以上保有していると年間最大5%の利息が受け取れます。2016年9月に公開されて仮想通貨としてはもう「古参」の部類に入るので、国内取引所はありませんが、世界の大手取引所には上場しています。たとえば日本の投資家にも人気のBinance(バイナンス)やBittrex(ビットレックス)、HitBTC、CoinExchange、Upbit、Cryptopiaなどです。値動きは2017年12月に1KMD=約1,500円まで上昇しましたが、その後は大きく値を崩し現在は1KMD=200円前後という水準です。
評価が高く、2018年5月に中国の仮想通貨格付けで第5位にランクインしたKomodoは、「プラットフォーム型」仮想通貨です。技術的には非常に高度で、仮想通貨の世界を根底から大きく変えてしまう可能性を秘めていますが、今後、「デファクト・スタンダード(事実上の標準)」をとれるかどうかで、天国と地獄の差がついてしまいます。
かつて家庭用ビデオで「ベータ対VHS」のデファクト争いがあり、最終的にVHSが勝ちましたが、「ベータの画質の方がきれいだった」と、いまだに言われています。デファクト競争は必ずしも技術的に優れたほうが勝つとは限りません。もしも後で「Komodo? 革新的だったけど10年早かったね」と言われようと、負けは負けです。投資家はそんなリスクも覚悟しなければなりません。
小さな島でコモドドラゴンが人間を食べてしまい「恐怖の人喰いは虫類」とテレビ番組のネタになっても、世界的にみれば70億人以上対数百匹で人間の圧勝です。大型は虫類がデファクト・スタンダードだった恐竜時代は決して復活しません。人間に絶滅危惧種として保護され、命をつなぐ日々が続きます。