「Mobius(メビウス/単位:MOBI)」は、2018年1月にICOトークンセールが行われたアメリカ発の仮想通貨です。ブロックチェーンを利用したオンライン送金・決済の手段として提携先がある農業分野などで実際に使われており、スペックは現在主流のイーサリアムベースのERC20トークンではなく「StellarベースのSCPトークン」です。それはERC20トークンよりさらに手数料が安くなることがセールスポイントです。

すでに農産物取引の決済に利用されている

Mobiusは日本では「モビウス」と紹介されることもありますが、語源は「クラインの壺」とともに「不思議な図形」としてよく知られている「メビウスの輪(Mobius loop)」で、1865年にそれを論文の中で発表したドイツ人の数学者アウグスト・フェルディナント・メビウスの名前にちなんでいます。紙テープを1回ひねって輪にすると表も裏もなくなり、両面がムダなく使えるので、オーディオのエンドレステープやプリンターのインクリボンなど工業製品にも利用されています。

メビウスの輪はMobiusのトレードマークですが、仮想通貨としての機能はその図形と直接の関係はありません。メインの機能は「送金・決済の手段」です。2018年5月24日にMobiusはアメリカ、メキシコなど中南米、フィリピンなど9ヵ国の農業生産者、農業協同組合が参加している団体「プロデューサーズ・マーケット」と提携しました。そこでは農産物取引の決済手段としてMobiusのトークンが使われ、農業分野で使われる世界で初めての仮想通貨になりました。

プロデューサーズ・マーケットというのは、農業生産者と食品加工業者などのバイヤーとを直接結びつけているネット上のデジタル・コミュニティです。そこでのMobiusによる最初の取引は、アメリカ・メーン州の海岸で昆布を養殖している生産者と、ニューヨーク市にある昆布を加工して保存食を生産する食品メーカーの間で行われました。昆布の養殖は日本では養殖漁業の一つですが、農業とみなされています。農業で古くからある取引の形は、仲介業者が生産地まで来て農産物を集荷し、銀行が近くにないような地域では銀行代わりに代金の決済も代行して、少なくはない手数料を差し引いて生産者に前払いをするというものです。プロデューサーズ・マーケットはそのような仲介業者を通さずに、ネット上で農業生産者とバイヤーが直接取引します。そのため中間マージンや手数料が発生せず、その分、生産者が本来得られるはずの正当な報酬を得ることができ、手取り収入が増えるというのがその基本的な構造です。

さらに、決済手段に仮想通貨を利用することで手数料は安くなり、ブロックチェーンやスマートコントラクトの技術を利用することで農産物取引の透明性、信頼性が増して、それもまた仲介業者を不要にするというメリットがあります。しかも、取引後の入金は前払いでなくてもほぼ即金に近くなります。決済に利用する仮想通貨も、種類が数ある中でMobiusを採用することで、他のビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、イーサリアムベースのERC20トークンに比べて手数料はさらに安くなります。その分、農業生産者の手取り収入はさらに増えることになります。収入の増加は農業ビジネスへの新たな投資を呼び込むだけでなく、農産物の販売価格を戦略的に下げることで、最終消費者に対しても利益を還元することができます。そうやってMobiusを利用することによって、農業ビジネスを大きく変えることも可能だと言っています。

提携先のプロデューサーズ・マーケットでのケースはMobiusの利用実例の一つで、農業に限らずどんなビジネスの取引でも利用することができます。その武器になっているがビットコインでもイーサリアムベースのERC20トークンでもない「StellarベースのSCPトークン」だということです。他の仮想通貨による決済に比べて手数料をさらに安くすることができ、たとえばプロデューサーズ・マーケットでの昆布の取引の例では、1回あたりわずか1セント(=1ペニー=1.1円)になっています。ビットコインの決済手数料の高さが問題視されているだけに、これはアドバンテージになります。

最近では、ICOして上場する仮想通貨の大部分のスペックは「イーサリアムベースのERC20トークン」で、ERC20はアルトコインのプラットフォームで「デファクト・スタンダード(事実上の標準)」を占めている状態ですが、Mobiusはそれとは異なる「Stellar」ベースのトークンであることが、ICOの時にも話題になりました。Stellar(XLM)は現在の名称はLumens(ルーメン)で、ブロックチェーンを利用して決済システムと個人の間をつなぐという目的があります。Stellarでは決済や価値交換を行うために「SCP(Stellar Consensus Protocol)」という独自のアルゴリズムを使っていて、MobiusはERC20の代わりにそれを採用しました。これはアルトコインの「イーサリアムベースのERC20トークンの一人勝ち」状態に風穴を開けるのではないかと現在、注目されています。

アプリケーション開発に事業の軸がある

Mobiusはカリブ海のタックスヘイブン(租税回避地)のケイマン諸島籍ですが、実質的にはアメリカ発の仮想通貨です。立ち上げたのは過去にいくつものベンチャーを立ち上げた経験がある起業家チームで、CEOのデービッド・ゴーバード氏はハーバード大学で数学やコンピュータサイエンス、法律を専攻した人で、COOのサイラス・カハンディ氏はスタンフォード大学の出身です。

Mobiusの原点になったのは、ブロックチェーンを利用したトークンベースの支払い用アプリケーションでした。より早いトランザクション、より安全なセキュリティ、より安い手数料を目指したアプリケーション開発の末、StellarのSCPの採用、Mobiusのプラットフォームに行き着いています。そんな経緯があったので、Mobiusではトークンとアプリケーションの統合を目指しています。

全てのブロックチェーンで決済を高速に、安全に、安価に行えるような無料のユニバーサルAPI (アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を提供しており、構造がシンプルで説明書を見なくても使えるというこの双方向APIが技術的なコアになります。MobiusのAPIをダウンロードして実装できる「dApp Store」(分散型アプリケーションのマーケットプレイス)は一時的にGoogle検索で第1位にランクされました。また、データをスマートコントラクトに結びつけるための「PSOP(プルーフ・オブ・ステーク・オラクル・プロトコル)」に関連したライセンスも取得しています。Mobiusの開発チームはdAppの開発に意欲的に取り組んでおり、将来的にもアプリケーションの開発を事業の軸にしたいと言っています。そのように技術的な基盤を固めてさらに高度化を図るというのは、仮想通貨の運営としては正攻法のやり方です。

送金・決済の分野はライバルも多いものの

農産物取引の決済手段として農業分野で世界で初めて使われる仮想通貨「Mobius」Mobiusの発行上限は8億8,800MOBIで、そのうち約3億7,700万MOBI分をすでに発行しています。2017年11~12月のプレセールで3,000万米ドル(約33億円)分のトークン、2018年1月のICOトークンセールで3,900万米ドル(約43億円)分のトークンを販売し、1月18日に始まったICOトークンセールはわずか2時間で売り切れるという人気でした。
そのICO時の交換レートは「1MOBI=0.16米ドル(約17円)」でした。仮想通貨取引所では現在、日本の投資家の利用も多いKuCoinやGate.io、GOPAX、BitMart、OTCBTC、Stellar Decentralized Exchange、Stellarport、Stellarholdなどに上場しています。ところが、取引所上場直後の2018年1月27日に交換レートは1MOBI=38円まで上昇したものの、すぐに値崩れして現在は4~5円台で低迷しています。仮想通貨マーケット全体が低調なこともあって、なかなか再浮上のきっかけがつかめません。

送金・決済のジャンルの仮想通貨はビットコインやイーサリアムも含めて多くのライバルがひしめいています。それだけ後発のトークンは不利ではありますが、Mobiusには決済手数料を他より安くできる「StellarベースのSCPトークン」というスペック上の大きな特徴があります。Mobiusはようやく農業分野での実績づくりが始まったばかりですが、農業は世界トータルで5億7,000万ヵ所以上の農場があり、食糧を必要とする世界の人口は70億人を超え、世界全体の市場規模は3兆ドル(約330兆円)という巨額にのぼります。ですからこの分野で実績をあげるとかなり大きな成果になります。他の産業でもMobiusの技術的な優位性やユーザーのメリットが広く浸透すれば、ドングリの背比べのようなERC20トークンを横目に市場価値も浮上をみせる可能性があります。いま開発に力を入れているというアプリケーションの高度化とその普及がカギを握っていると言えます。