2014年と2017年は、「仮想通貨」や「ビットコイン」が頻繁に話題に上がった年でした。しかし、2018年に入ってから、仮想通貨NEMが大量に流出する「コインチェック事件」が起きて以来、仮想通貨相場は全般的に値を下げて、世間の話題にも上りにくくなっています。仮想通貨やビットコインは、単なる一過性のブームだったのでしょうか。果たして、どれほどの将来性があるのでしょう。

仮想通貨の今まで

2009年に、正体不明の日本人「サトシ・ナカモト」の名義で、英語で発表された論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」によって、誰からの中央的な管理も受けずに動かすことのできる仮想通貨システムの構想が明らかにされています。このシステムは、後に「ブロックチェーン」と呼ばれるようになります。2010年に、アメリカ合衆国でピザ2枚と1万BTCが交換されたことをきっかけに、ビットコインの取引が実際に始まりました。ちなみに1万BTCは、2018年6月現在の価値にして、約80億円にもなっています。

2010年以前にも、リップルやファクトムなど、中央で特定の組織がコントロールしている仮想通貨が存在していましたが、ビットコインは、誰も管理していない「非中央集権のデジタル通貨」という点で画期的だったのです。それはまるで、国家が通貨発行権を一手に引き受けて、景気対策で大量に発行することで自らその価値を下げていた、米ドルや日本円などの法定通貨に対するアンチテーゼのようでもありました。

その頃、ギリシア危機やキプロス危機、ジンバブエのハイパーインフレなど、世界各地で金融相場の崩壊が起きました。自国の通貨を信用できなくなった市民は、自己の資産を守るため、ビットコインを購入してしのいだのです。このように必要に迫られて、個人が大規模に購入する機会があり、ビットコインはたびたび暴騰したのです。

しかし、2014年に仮想通貨取引所「マウントゴックス」から、ビットコインが大量に消失する事件が起き、同社は破綻して、代表は業務上横領の疑いで起訴されています(2018年6月現在、裁判係属中)。この事件によって「ビットコイン」の存在を初めて知った日本人も多かったですが、同時に「怪しい」というイメージが付きまといました。

しばらくの間、価格は横ばいかゆるやかの上昇で推移しましたが、その間にも、ロシアのヴィタリック・ブテリン氏が考案した新型仮想通貨「イーサリアム」は、契約内容をブロックチェーンに書き込んで、条件を満たすと自動的に執行する「スマートコントラクト」を搭載した点で画期的でした。

2017年の仮想通貨市場

2017年は、仮想通貨が大きく躍進し、その歴史に残る年だったといえます。年初に1BTC=9万円前後だったビットコインは、年末に200万円を大きく上回ったのです。また、3月から4月にかけては、それぞれ1単位で1円に満たなかったリップル(Ripple)やネム(NEM)も、数十倍に暴騰したのです。 これらの値上がりに乗って、短期間に資産を数十倍に膨らませる投資家も続出し、「億り人」(おくりびと)と呼ばれる仮想通貨長者も生まれ、社会現象になりました。そして、夏場や年末に、ビットコインが急騰した流れにも、仮想通貨全体が乗っていき、時価総額がうなぎ登りとなっていきました。

8月1日には、ビットコインからハードフォーク(不可逆的分岐)をする形のバージョンアップで、新たに「ビットコインキャッシュ」が誕生し、さらに10月には「ビットコインゴールド」もハードフォークで誕生しています。ともに誕生時から値上がりしています。

ビットコインは、普及して利用者が多くなるにつれて、送金速度が遅くなり、送金手数料が高くなっていて、使い勝手が悪くなっていました。ブロックチェーンのデータの鎖を構成する、ひとつひとつのブロックサイズが相対的に小さくなっていたため、ビットコインキャッシュは、ブロックサイズを8倍(8MB)に拡張させて、使い勝手の問題を解消させました。

しかし、2017年の間にも、特にビットコインは何度も暴落しています。当時、世界一と言われる取引量を誇った中国で、仮想通貨の取り扱い規制が発覚したり、規制が実行されたりするたびに、大きく値を下げているのです。 また、2017年11月には、ビットコインの不可逆的バージョンアップ(セグウィット2X)が急遽中止になったことで、失望による大量の売りが入り、1BTC=80万円台から、数日で60万円近くまで暴落しました。

一方で、その際にビットコインキャッシュの相場は急騰しており、ビットコインに入っていた時価総額が、一挙にビットコインキャッシュへ流れ込んだタイミングだとみられています。しかし、ここから1カ月間で、ビットコインは1BTC=200万円を超える大暴騰を見せることになります。 11月から12月にかけては、イーサリアム、リップル、ネムなど、ずっと値動きの鈍かった他の仮想通貨も、軒並み数倍に高騰しています。

「コインチェック事件」が仮想通貨市場の一つの区切り

仮想通貨の相場が、非常に値動きが激しいのは、他の金融商品に比べて、時価総額が相対的に少ないことと、ほぼ連動しています。日本円や米ドルなど、一般的な法定通貨の相場に比べると、100分の1にも満たない規模だといわれているので、ひとたび大資本が入ったり出たりするだけで、価格が気まぐれに変動してしまうのです。大口投資家同士で連携してのインサイダー取引を噂する声もあります。しかし、株式やFXに関心があるような個人投資家が仮想通貨にも関心を持ち、さらには通貨としての普段使いがなされることによって、仮想通貨の相場は徐々に安定し、信頼性のあるものになっていくはずです。

送金速度が相対的に遅いビットコインは、金や宝石などに相当する仮想通貨界の「資産」の役割を果たす一方、ビットコインキャッシュこそが、普段使いの「通貨」として利用されるようになると期待されています。現在は、その段階へ移行する途中の過渡期というべきです。

2018年1月に発生した「コインチェック事件」は、日本円で580億円相当という、通常ではありえない規模の盗難が発生し、犯人も特定されないまま、盗まれた仮想通貨の大半はマネーロンダリング(犯罪資金洗浄)されてしまいました。仮想通貨相場から、大量の資金が引き揚げられ、ビットコインを初め、軒並み値下がりしており、2018年6月現在で、回復の兆しは見えないように感じられます。

これからの仮想通貨の展望・将来性

ビットコインは単なるブームではなく、本格的な仮想通貨時代の幕開けかしかし、仮想通貨に将来性がなければ、大手企業が参入したり、大資本が入ったりすることはありません。GMOやDMMといったIT関連企業の成功者が、相次いで仮想通貨取引業に参入しているほか、通信アプリア大手のLINEは、関連企業の「LINE Financial」を新規に立ち上げて、仮想通貨取引事業への参入を発表しています。

個人フリーマーケットアプリ大手のメルカリは、金融系の子会社「メルペイ」を設立し、仮想通貨取引の登録申請を行っているとみられます。一般層への知名度が抜群のメルカリでビットコイン決済などが行われれば、普及も加速する可能性があります。 また、ヤフー株式会社は、その子会社を通じてビットアルゴ取引所東京の株式を大量取得し、実質的な業界参入の意思を示しています。

Q&Aサイト大手の「OKWAVE」は、シンガポール企業の「Wowoo」と連携して、マレーシアにICOプラットフォーム企業を新規に立ち上げるとともに、質問者と回答者の間で、仮想通貨「Woobit」を通じてのお礼の交換ができるコミュニティサイトの構築を目指しています。

金融のプロフェッショナルが相次いで業界に参入していることも、仮想通貨の将来性を占う上で無視できません。SBIホールディングスは、2016年の段階で仮想通貨取引を専門にする子会社「SBIバーチャル・カレンシーズ」を設立していますし、コインチェックは、マネックスグループの完全傘下に入りました。

仮想通貨は、一部の投資家による投機対象としての使い道しかありませんでしたが、やがて、実際の通貨として使われる段階に入るはずです。 まず「少額でも送金手数料がほとんどかからない」というメリットを存分に活かし、10円や100円といったお金がネット上で気軽にできる時代に入るでしょう。そのうち、スマートコントラクトを応用して、契約・保険・無店舗サービスなどが一気に普及していくはずです。「一攫千金」のチャンスは徐々に減っていくでしょうが、仮想通貨が日常生活に自然と浸透していく日は、もう間もなくです。