スケーラビリティとは?

仮想通貨において、スケーラビリティという言葉をよく目にするようになってきました。スケーラビリティ(scalability)とは、コンピュータやWeb上のシステムにおいて、利用者や仕事量、負荷が増えたとしても、処理速度がこれらの増大に対応でき、それほど処理が遅くならずに動かすことができることをいいます。特に仮想通貨におけるスケーラビリティという意味においては、送金や取引(トランザクション)の頻度が増えたとしても、その処理に遅延が生じず、スムーズに送金や取引を行えることをいいます。

しかし、仮想通貨の中にはスケーラビリティに支障が生じて、送金などに遅れが生じているものがあります。このような「スケーラビリティ問題」を抱えている代表的な仮想通貨が、ビットコインやイーサリアムなどです。仮想通貨においてスケーラビリティに問題が生じ、送金が遅れれば、仮想通貨の「通貨としての実用性」が損なわれてしまい、一般的な普及に支障が生じてしまうおそれがあります。

ビットコインの基幹技術「ブロックチェーン」

代表的な仮想通貨であるビットコインは、2008年に謎の日本人「サトシ・ナカモト」によって、その構想が発表され、2010年頃から実用化された、最も「歴史」のある仮想通貨です。ビットコインに仮想通貨としての社会的な信頼性を裏打ちさせている基幹技術が、ブロックチェーンです。

ブロックチェーンというシステムは、仮想通貨としてビットコインが生まれてから今までに取引されたすべてのトランザクション記録を、中央で管理された特定のサーバーでなく、世界中の様々なコンピュータ端末に分散して保存させます。これによって、外部からの不正な攻撃によって、トランザクション記録の勝手な書き換えや改ざん、消去などができないようになっていますので、仮想通貨としての、そのデータの信頼性が保証されています。

新たなビットコインの取引が行われれば、ブロックチェーンの記録と矛盾がないかどうかを照らし合わせて確認し、新たなトランザクション記録をひとまとまりの「ブロック」にして、10分おきに過去のブロックチェーンに繋げて保存するのです。

このような確認作業は、世界各地の高性能コンピュータによって、競争的に実行されています。最も高速に新たなトランザクション記録の照合作業を終えたコンピュータの所有者・管理者に、新規発行されたビットコインが一種の謝礼として付与されます。高性能コンピュータによる、このようなトランザクション照合作業を「マイニング」と呼び、マイニングを行う人や事業者を「マイナー」と呼びます。このように、確認作業が行われるたびにブロックチェーンが少しずつ長くなっていき、データのサイズが大きくなっていくのです。そのデータの量が多くなりすぎて、支障がでる問題が「スケーラビリティ問題」です。

ビットコインのスケーラビリティ問題

ビットコインのトランザクション記録を保存している単位である「ブロック」は、その保存容量が1MBに制限されています。そのため、それほど多くのトランザクションを処理できないという本質的な問題を抱えています。これがスケーラビリティ問題です。今までは、このスケーラビリティ問題が顕在化することがなかったのですが、ビットコインが高騰し、取引量が急激に上がってきたことから、処理しなければならな送受信情報の量が増え、そのせいでスケーラビリティ問題が「深刻な問題」として認知されるようになってきました。

スケーラビリティ問題が起きると、マイニングによる処理に、トランザクションの増加するペースが追いつかない「トランザクション詰まり(送金詰まり)」が起こり、いつまで経ってもなかなかビットコインの送金が完了しない、いわば「ビットコインの渋滞」が発生してしまうことになります。

送金詰まりが起きないようにするためには、スケーラビリティ問題が起こって情報処理が混雑しているときに、自分のトランザクションをマイナーに優先して処理してもらえるよう、手数料を増額させることもできます。しかし、近ごろでは手数料の増額幅が大きすぎて、一般的に用いられている法定通貨(日本円や米ドル、ユーロなど)の送金手数料を上回ってしまうケースが続出しています。このまま、スケーラビリティ問題によってビットコインの送金手数料が高止まりしていれば、わざわざ仮想通貨を使う人は増えることがなく、普及の勢いも止まってしまうでしょう。スケーラビリティ問題を解決しなければならない理由は、ここにもあります。スケーラビリティ問題のせいで送金が遅く、また送金手数料も高騰してしまうと「ビットコインの存在意義」が揺らいでしまうのです。このスケーラビリティ問題を解決しなければ、ビットコインの価格面はもちろんのこと、ビットコインが存在する価値自体も低下していってしまうことになります。

スケーラビリティ問題によって、送金をしてもなかなか完了しない「トランザクション詰まり」が頻発して、そのせいで送金手数料が引き上がる問題は、イーサリアムにも生じています。イーサリアムは、仮想通貨界でビットコインに次ぐ第2位の時価総額を誇っており、ICOトークンにも応用されていることから、世界中で利用者も急増していますが、そのせいでスケーラビリティ問題に直面しています。イーサリアムでもスケーラビリティ問題によって、送金に遅延が発生したり、送金手数料が上がったりしていることが問題になっています。

今後、こうした仮想通貨の「スケーラビリティ問題」を解決せずに放置していると、送金手数料をゼロに近づけて、世界中の人々の間で手軽に経済価値の交換を可能にするという、仮想通貨の存在意義が破壊されかねません。スケーラビリティ問題は、非常に深刻な問題として捉えるべきといえるでしょう。

スケーラビリティ問題の解決策(1)【ブロックサイズの拡張】

スケーラビリティの対応力が高い仮想通貨が次世代の仮想通貨界で確固たる地位を築くスケーラビリティ問題を解決して、仮想通貨のやりとりをスムーズにするために考えられる対策は、次の通りです。

たとえばビットコインであれば、1MBしかないブロックチェーンのブロックサイズを拡張s、送金処理速度を上げることによってスケーラビリティ問題を解決するという方法があります。
しかし、ブロックサイズを変更するためにはビットコインという仮想通貨のブロックチェーン自体を新たに造り直さなければならず、ビットコインとは別の仮想通貨を新たに造り出す行為を行わなければなりません。2017年8月に、ビットコインをベースに新たに造られた「ビットコインキャッシュ」は、性能面はビットコインに似ていますが、スケーラビリティ問題を解決するために、ブロックサイズが8MBに拡張された仮想通貨です。

このような仮想通貨のバージョンアップを、ハードフォーク(不可逆的な分岐)といいます。ただ、ブロックサイズ拡張目的のハードフォークで新たにできた仮想通貨に、過去のトランザクション記録は引き継がれません。また、ビットコインそのもののスケーラビリティ問題は解決せずに残ったままです。

スケーラビリティ問題の解決策(2)【セグウィット】

そこで、もうひとつのスケーラビリティ問題の解決方法として、ブロックサイズを変えないまま、ブロックに多くのトランザクション情報を詰め込めるバージョンアップも考案されています。これをSegwit(セグウィット)と呼びます。たとえばビットコインの場合、送金や受け取りを行った利用者情報にあたる「署名」を、ブロックチェーンとは別個に保存することで、1MBのブロックに倍近くのトランザクション情報を記録できるものとされています。これでスケーラビリティ問題の解決をはかろうとしていました。

2017年11月には、ビットコインのブロックサイズを2MBに拡張しつつ、Segwitも行う「Segwit2X」と呼ばれるバージョンアップも計画されていましたが、根本的な問題解決にならないなどの理由で、多くのマイナーが反対したため、突如中止されました。良い方法と思われたものの、スケーラビリティ問題を解決する方法としては採用されていません。

スケーラビリティ問題の解決策(3)【ライトニングネットワーク】

また、スケーラビリティを解決するもう一つの方法として、ビットコインに「ライトニングネットワーク」と呼ばれるしくみを組み合わせるバージョンアップ構想もあります。ライトニングネットワークとは、従来のビットコインという仮想通貨のブロックチェーンを維持しつつ、それとは別個の送金処理システムをつくって、多くのトランザクションを一括して処理することで、保存すべき情報を節約し、ビットコインの取引全体を高速化、効率化させ、スケーラビリティ問題の解決を図る方法です。

たとえば、A・B・C・Dという4人の人物がいるとして、A→B、B→C、C→Dというビットコインの送金が短期間に行われたとします。そのとき、従来ならば3つのトランザクションをブロックチェーンに載せなければならなかったのが、ライトニングネットワークを介することで、ブロックチェーンには「A→D」のトランザクション1つだけを載せれば済むことになります。このようにしてトランザクション量を減らすことで、スケーラビリティ問題を解決しようとしています。

しかし、この方法では、処理すべきトランザクションの数が減ることで、マイナーの受け取る報酬が減ってしまう結果になります。ひいては、マイニングのモチベーションが上がらずに、マイナーの参入も減り、かえってビットコインシステムの維持ができなくなるおそれがあります。この方法は、スケーラビリティを効果的に解決できる可能性がある一方、別にリスクが発生してしまうということになります。これが、ライトニングネットワーク構想の課題です。

また、トランザクションが減っても、仮想通貨市場が拡大し、ビットコインの利用者の人数や、利用者相互の繋がりの数(チャネル数)が増えれば、結局は、ビットコインという仮想通貨のブロックチェーンの記録領域を消費してしまいます。よって、ライトニングネットワークは、ビットコインのスケーラビリティ問題をとりあえず解消する対症療法ではあっても、根本的な解決には繋がらないとされます。

以上のように、スケーラビリティ問題を解決しようといくつかの解決策が考案されましたが根本的な解決策にはいたっていません。もし、利用者がどれだけ増えても送金手数料が上がらず、送金速度も変わらず、スケーラビリティの対応力が高い仮想通貨が開発されれば、普及が促進され、次世代の仮想通貨界で確固たる地位を築くことになるはずです。