「Walton」(ウォルトン/単位:WTC)は、2016年11月に公開された中国発の仮想通貨です。IoT(Internet of Things/モノのインターネット)で重要な技術になるRFID(Radio Frequency Identification)とブロックチェーンを統合させる構想が注目を集めています。目指しているのはRFIDをもっと活用して、産業界から日常生活まで何でもスムーズに、スマートに管理できるIoT社会です。
工場や店舗、駅で使われるRFIDの技術
Waltonは人の名前で、RFIDの技術を発明し1973年にその最初の特許を取ったチャーリー・ウォルトン(Charlie Walton)氏にちなんでいます。2011年に亡くなったウォルトン氏はアメリカ人ですが、Waltonは中国に本拠を置いています。2016年にICOしましたが、公開日はわざわざウォルトン氏の命日の11月30日に合わせました。
RFIDとは、薄い「RFタグ」と読取機(リーダーライター)の間の数センチから数メートルの近距離で、高周波(電波)の通信で情報をやりとりし、お互いのIDを自動認識して情報の表示や登録や更新ができるようにする技術です。ID情報はRFタグの中に入っています。もともとは工場で、部品1個1個にRFタグを取り付け、バーコードやQRコードを読み取る代わりにRFタグを読取機に近づけて情報を読み取り、生産ラインを効率よく管理するために生まれましたが、現在は社会のもっと幅広い分野で利用されます。
たとえば小売店で商品1個1個にRFタグを取り付ければ、それが陳列棚にあるのか、倉庫(バックヤード)にあるのか、もう売れてしまったのかリアルタイムに把握でき、商品の在庫管理が楽にできるようになります。どんな天気の日によく売れたかなどマーケティングのデータも得られます。
住宅も自動車も家電も、あらゆる「モノ」がインターネットを経由で情報交換を行うことでお互いを制御する「IoT(Internet of Things/モノのインターネット)」がクローズアップされていますが、モノ1個1個にRFタグをつけて利用するRFIDの技術は、IoTのベーシックな部分を担う重要な技術です。
日本で最もよく知られるRFIDのシステムは、鉄道駅の非接触型ICカードによる集改札でしょう。JR東日本のSuicaなどJR各社のICカード、首都圏のPASMOなど私鉄各社のICカードは、その中にICとRFタグが入っています。
集改札機の読み取る部分にカードを近づけると人が通過できます。カードを接触させる必要はありません。下車時は改札と同じ要領で出口の集改札機を通過すると、ICカードにあらかじめチャージさせていた金額から乗車区間の運賃が差し引かれます。そうやってICカードは完全に乗車券や定期券の代わりを果たしています。
電子マネーでもRFIDは使われますし、ビルの入・退館時、読取機にかざしてゲートを通過する社員証や入館証はRFIDが利用されています。Waltonは、社会で幅広く利用されるこのRFIDの技術に関連した仮想通貨で、ブロックチェーンとRFIDの両技術を統合させることが、その目的です。
基本技術「ウォルトン・チェーン」のしくみ
ブロックチェーンを利用すると情報管理の「安全性が増す」「透明性が確保できる」ことは広く知られていますが、それをRFIDを組み合わせるプロジェクトをWaltonは「ウォルトン・チェーン(Walton Chain)」と呼んでいます。これがWaltonの基本技術です。
ウォルトン・チェーンを、工場、倉庫、物流、店舗などビジネスの現場で情報管理に活用すると、次のようなメリットが生まれます。
・高いセキュリティ性
・モノの追跡ができる
・情報の偽造の防止
・リスクの分散
・労働コスト(人件費)の削減
・環境負荷(紙の使用量)の軽減
たとえば集中型の管理システムでRFIDを利用すると、ホストコンピュータなど情報管理を集中化させている部分を災害やハッキングなどでやられた場合、機能が停止してしまい、大事な情報が失われる恐れがありますが、ブロックチェーンで「分散化」「クラウド化」させれば避けられます。ブロックチェーンは情報の改ざん、偽造がされにくい特性もあり、安全な情報共有ができるようになっています。
ウォルトン・チェーンは「親チェーン」の下に「子チェーン」があります。たとえば「生産」の親チェーンの下にはタグの生成、製造の各工程(プロセス)、検品などの子チェーンがあり、「店舗」の親チェーンの下には、送達確認(納品)、在庫、陳列、販売などの子チェーンがあります。親チェーンと子チェーン、親チェーンと親チェーンがつながって、製造から販売までのサプライチェーン全体で一つのネットワークを形成しています。
集中管理型のシステムをブロックチェーンで「分散化」「クラウド化」するウォルトン・チェーンは、導入すればシステムの保守・管理にあたる人数を減らすことができます。小売業では「棚卸し」など在庫管理が省人化できます。そのように人件費、労働コストを削減できます。また、紙に印刷するバーコードやQRコードと比べると、情報管理が「ペーパーレス」になるので森林資源を消費する紙の使用量が減り環境負荷が軽減されます。
ウォルトン・チェーンでのトークンのWaltonの使い途ですが、まず関連商品を購入するための通貨が挙げられます。その他、価値の保管や価値移転のための方法、IoTの信用度を測定する単位、IoTの仕事量や質を測定する単位としても使用できます。
ブロックチェーンと統合してIoTはVIoTに
Waltonの開発チームは中国人、韓国人が主体で、ブロックチェーン、RFID、IoTの技術者が揃い、次世代のRFチップやRFタグ、読取機のようなハードウェアの研究も行っています。ハイテク企業や衣料メーカーなど中国企業が協力しています。トークンはイーサリアムベースのERC20でウォレットにMyEtherWalletが使えます。
コンセンサスアルゴリズムは「PoW(Proof of Work)」よりも新しくセキュリティ性が高い「PoST(Proof of Stake and Trust)」を採用しています。発行上限枚数は1億WTCで追加発行はありません。2016年11月以降にICOしました。
2017年8月に仮想通貨取引所に上場。上場先は国内ではまだありませんが、海外では日本人投資家にもおなじみのBinance(バイナンス)、KuCoin(クーコイン)やHitBTC、OKEx、分散型取引所のEtherDeltaなどに上場しています。値動きは1WTC=1.06米ドル(約116円)で始まり、2017年11月頃までは4~7米ドル程度でしたが、年が明けて1月28日、1WTC=43.89米ドル(約4,828円)という最高値をつけました。しかし長続きせず、3月に2,000円を割り込み、現在は1,000円も割り込み600~700円付近のポジションです。
仮想通貨Waltonの4段階のロードマップ
Waltonのロードマップによると、有力ユーザーの衣料メーカーへの提供を例に挙げて4段階のフェーズが進んでいきます。
・フェーズ1 RFIDに基づく衣服生産シ
ステム統合スキームの開発、実装。独自のRFIDビーコンチップの研究開発開始。IoTとブロックチェーンの完全統合の達成
・フェーズ2 RFIDビーコンチップの量産とその小売、物流部門への投入。P2Pの物流情報チャネルの構築。ビジネス自動化管理情報プラットフォームの提供
・フェーズ3 商品情報がRFIDで確認できるようになり、その正しさと信頼性が保証される。原材料と生産工程の品質が検証されることで品質問題が起きた時に原因の追跡が可能になる。偽物が排除される
・フェーズ4 ハードウェアのアップグレード、ブロックチェーンのデータ構造の改善。将来、全ての資産はウォルトン・チェーンに登録できるようになり、世界中の生産活動や人々の生活で広く利用されるインフラになる
つまりWaltonは、ブロックチェーンとRFIDの統合の先に、サプライチェーンでのブロックチェーンとIoTの統合まで想定していて、それを「VIoT(Value Internet of Things)」と呼んでいます。
Waltonと同じIoT関連の仮想通貨にIOTA(IOTA)がありますが、これは一時Walton以上の高騰をみせました。他にはVeChain(VEN)やWaBi(WABI)などがあります。Waltonがそんなライバルに差をつけるポイントは、すでにRFIDのハードウェアが産業界や交通機関などで広く普及し、その数が増え続けていることです。
特に小売業では今後も、在庫管理を省人化できるRFタグの利用が伸び続けると予想されています。IoT、トレーサビリティ関連の仮想通貨プロジェクトのほとんどがソフトウェアの部分だけで完結するのに対し、Waltonがハードウェアをベースとしているのは大きな強みになります。
今後、ブロックチェーン技術をとり入れた安全で透明性があり追跡可能なウォルトン・チェーンが広く普及していけば、その中でトークンのWaltonが価値の移転や保管に使用される機会も増え、仮想通貨マーケットでの価格も「実需」をベースとする底堅さで、再び上昇カーブを描くでしょう。