「YOYOW(ヨヨー/単位:YOYO)」は2017年3月に公開された中国発の仮想通貨です。自前で運営するソーシャルメディアに文章や音楽や動画など優れたコンテンツを投稿した人にYOYOWで報酬を支払うという「コンテンツ報酬型」の仮想通貨です。
仮想通貨YOYOWの「コンテンツ報酬型」とはどんなタイプか
YOYOWという名前はおもちゃの「ヨーヨー」のことではなく、英語の「You Own Your Own Words(直訳すれば「あなたは自分自身の言葉を所有する」)」の頭文字をとった略称です。どんな仮想通貨かというと、ネット上でソーシャルメディア(SNS)に投稿して、それが評価を受けると報酬が支払われます。支払いは法定通貨ではなくYOYOWで行われます。そんなトークンのカテゴリーを「コンテンツ報酬型」と言います。
これは、誰でも言葉を発したら、その言葉に対する権利を所有できるという考え方に基づいています。問題発言をしたら政治家でなくても責任を問われますが、誰もが感心する〃名言〃を残したら、それ相応の報酬が支払われてしかるべきだということです。
現状はブログのような画面の「デモ版」なのでテキストデータの「記事」がほとんどですが、評価の対象は書いたり話したりしたWords(言葉)のテキストデータ、音声データだけでなく、絵や写真の静止画、音楽の音響データ、ダンスや漫談のようなパフォーマンスの動画など、コンテンツ全般にわたります。自前で運営するソーシャルメディアに投稿して、著作権侵害やわいせつなどの問題がなければすぐに公開され、〃読者〃(ユーザー)がそれを評価するとコンテンツにはYOYOW単位の「価格」が表示され、その分のトークンが報酬として支払われます。
「投げ銭」に近い報酬レベルの仮想通貨YOYOW
もっとも、投稿者が受け取ったYOYOWトークンを米ドルや日本円のような法定通貨に交換しても、報酬は生活ができるほどの金額にはなりません。最高額は日本円で30万円程度ですが、それはまれなケースで、ほとんどは1万円以下です。駅前広場でギターの弾き語りをするストリートミュージシャンや、お祭りの日に神社の境内で芸をする大道芸人に、通りすがりの見物人がポケットマネーを投じていく「投げ銭」のようなものです。
路上ライブだけでは生活できませんが、投げ銭が多かった日は「きょうはウケた」と、パフォーマーは満足を覚えて帰れます。動画の視聴数が増えるとそれに比例してお金が得られる「ユーチューバー」とは違います。
それに対し「カネの亡者か?」と批判する人がいますが、21世紀はもう「武力」や「志」や「思想」で人を動かせる時代ではありません。人はお金で動きます。お金が集まるところには優れたコンテンツが集まり、天才が輩出し、文化が花開きます。ルネサンスの時代のフィレンツェやローマも、18世紀のヨーロッパの王侯貴族のサロンも、20世紀のハリウッドも、みんなそうでした。
また、コンテンツにYOYO単位の「値段」がつくと、「こんな作品が世間で評価され高い値段がつくのか」という〃指標〃になります。クリエイターはとかく「わかる人にはわかる」「売れることと芸術的価値は別物」「10年早すぎた」などと独りよがりになりがちなので、「評価される作品」と「評価されない作品」が値段でわかるのは、いいことです。
コンテンツの投稿や掲載、評価はフェイスブックやブログのような既存のSNSでも行われていますが、ブロックチェーンを利用する最大のメリットは「透明性の高さ」の確保にあります。報酬を支払いますから「身内に甘い」という噂が立つなど評価の透明性が低くみられては信頼が得られません。ブロックチェーンは公平な評価を保証します。
中国人が主体の開発チームはもともと「Bitshares」というブロックチェーンを利用した金融関係のプラットフォーム、つまりフィンテックに関わっていた人たちです。これは「ビットコイン2.0」(次世代のビットコイン)を目指していました。
それが、ブロックチェーンでクリエイターを支援しようという、お堅い金融と全く異なる分野で仮想通貨を立ち上げました。コンテンツ報酬型の仮想通貨としては他にアメリカのSteemit(STEEM)、ロシアのGolos(GOLOS)、日本のALIS(ALIS)などがあります。
交換レートが低迷しているので買いやすい
YOYOWはイーサリアムベースのERC20トークンです。アルゴリズムは一般的な「PoW(Proof of Work)」ではなく「PoT(Proof of Taste)」です。トークンが報酬の支払いに頻繁に使われるので発行上限枚数は3億YOYOと多くなっています。公開されたのは2017年3月です。
YOYOWは国内の仮想通貨取引所には上場していません。海外では日本でもおなじみの取引所バイナンス(Binance)に上場しましたが、中国政府のICO規制のあおりを受けていったん上場廃止になりました。理由はバイナンスが政府の規制を避けようと中国人ユーザーの利用を抑えようとしたからで、YOYOWは何も悪くありませんでした。その後、すんなり再上場を果たしています。
もっともYOYOWのメイン開発者の劉強氏によれば、Bitfinexへの上場が重要なマイルストーンと考えていたようで、バイナンス再上場直後にBiffinexに上場しています。その他に英国のHitBTCにも上場しています。なお、通貨単位は自前のソーシャルメディアやバイナンスでは「YOYO」ですが、「YOYOW」になっている取引所もあります。
上場後の値動きは、2017年9月頃は1YOYO=0.2米ドル(約22円)程度でしたが、2017年12月のピークにはその約10倍を超える2.5米ドル(約270円)前後まで上昇。しかし2018年1月には元の0.2米ドル(約22円)付近まで落ち着きました。ところが2018年春からの仮想通貨マーケットの退潮ムードには勝てず、現状の交換レートは1YOYO=0.05米ドル(約5.5円)程度まで低落してしまいました。それでも1,000YOYOでも5,500円と買いやすいので、とりあえず持っておいて様子を見るという戦略がとれます。ちなみに類似通貨のSteemitの値動きは底堅く推移しています。
ロードマップに見る仮想通貨YOYOWの狙い
ロードマップを見ると、YOYOWのプラットフォームをアップデートしていくとともに、その上で動くアプリケーションを開発して、「Apple Store(iOS向け)」「Google Play(Android向け)」でモバイル対応版もリリースする計画です。現在はブログ形式でテキスト(文字媒体)が中心ですが、今後はウィキペディアのような「百科事典」や言葉の意味を解説する「辞書」、「Q&A」の回答、作曲した音源、音楽ライブ、自主製作のニュース映像や動画番組なども評価の対象に加えて、報酬としてトークンを支払う予定になっています。当然ですが、著作権など知的財産権の保護もブロックチェーンを活用しながら行っていきます。
YOYOWの本当のライバルは、同じコンテンツ報酬型プラットフォームのSteemitやGolosやALISではありません。それはツイッターやフェイスブックのようなメジャー級のSNSです。一般ユーザーがツイッターやフェイスブックに投稿して「いいね」が山のようについても、投稿者にお金は一銭も入りません。
もうかるのは広告代を得る運営企業で、フェイスブックCEOのザッカーバーグ氏は世界の億万長者です。「せめて数千円(数十ドル、数十ユーロ)ぐらいはもらえないだろうか。もらえたら、もっといい投稿をするのに」と思っている人は、世界じゅうにたくさんいます。
透明性の高い評価システムによってソーシャルメディアに投稿したコンテンツの質の高さを正当に評価し、貢献度を定量化して報酬を支払うことでそんな人たちの不満を解消し、さらにメジャー級のSNSから優れた投稿者を引き抜いて、コンテンツ報酬型のソーシャルメディアが最終的に勝利をおさめることが、YOYOWの狙いです。
中国発の仮想通貨について回る政治リスク
しかし、中国発の中国で稼ごうとする仮想通貨にはどうしても「政治リスク」がつきまといます。ソーシャルメディア(SNS)の投稿を評価して仮想通貨で報酬を支払うYOYOWのモデルでは、「SNS」と「仮想通貨」という、中国政府が警戒して規制をかけているものが2つも入っています。
中国国内ではツイッターは禁止で、その代わりとして短文投稿SNS「微博(ウェイボー)」があります。フェイスブックもユーチューブもグーグルも禁止されています。仮想通貨に対する規制も厳しく、特にICOは事実上できなくなっています。
YOYOWは中国人による中国語の投稿が大部分ですが、その内容には中国の〃検閲当局〃が常に目を光らせていて、もし民主派や少数民族の政治的な主張が載ったりしたら即刻削除で、度重なると運営者も注意されるだけではすまなくなります。YOYOWがバイナンスに上場したら、中国政府の規制の影響で何も悪くないのに一時上場廃止になってしまい、辛酸をなめました。人口は世界第1位、GDPは世界第2位の中国で知名度を獲得してプロジェクトが成功したら大きなリターンが望めますが、政治的要因によってある日突然、100%が0%にされてしまうリスクも存在することは、くれぐれも忘れないようにしてください。