「Digitize Coin」(デジタイズ・コイン/単位:DTZ)は2018 年5月からICOトークンセールが行われたオーストラリア発の仮想通貨です。暗号化とブロックチェーンの技術で、コンビニなどリアル店舗で買物をした時、おつりで小銭をもらう代わりに、スマホの操作でDigitize Coinのトークンがもらえるようにする、というプロジェクトです。

おつりを仮想通貨でキャッシュレス化する

Digitizeとは英語で「デジタル化する」「電子化する」という意味です。何をデジタル化するかというと、それは「おつり」です。たとえば、お店で800円の商品を買ってレジで1,000円札を出すと、レシートと一緒に100円硬貨が2枚出てくるあの「おつり」です。

100円硬貨なら自動販売機で使えるのでまだいいのですが、消費税込み216円の商品を買って100円硬貨2枚と10円硬貨2枚を出し、おつりとして1円硬貨を4枚もらったら、自動販売機では使えず、つい「サイフに1円玉がジャラジャラ入っていたらわずらわしい」と思ってしまいます。「1円をおろそかにすると、後で1円足りなくて泣く」とわかっていても、アルミ製の軽いコインは落としたり、なくしたりしやすい厄介物です。

ではお店で、現金払いのおつりとして1円硬貨や5円硬貨の小銭を受け取る代わりに「その分を仮想通貨でお渡しします」と言われたら、どうでしょうか? 少なくとも受け取った時に「わずらわしい」とは思わないはずです。それは硬貨ではなく「電子データ」なので、落としたり、なくしたりする心配はありません。

お店側も、レジと連動させて仮想通貨で支払えれば、おつりを間違えて多く渡したり、少なく渡したりする恐れはなくなります。暗い場所で、同じ穴あきコインなので5円硬貨と間違えて50円硬貨を渡してしまい、45円損するようなことも起こりません。大手スーパーのPOSレジについている、精算するとおつりの分だけを出す機械「オートキャッシャー」は、小さな商店にとっては高価な装置です。

そのように、消費者も店もわずらわしく思いがちな小銭を仮想通貨に置き換えて「現金払いのおつりのキャッシュレス化」を実現しようとしているのがDigitize Coinのプロジェクトです。仮想通貨の暗号化技術やブロックチェーン技術を使って、おつりを正確に、安全に仮想通貨化します。

具体的な手続は、消費者はあらかじめスマホにDigitize Coinのアプリをインストールし、アカウントを取得します。買物に行き、レジで紙幣や硬貨を出しておつりが発生したら、お店にある端末をスマホでスキャンすれば、おつり相当分のDigitize Coinのトークンが即座にアカウントに入金されます。それだけです。

アカウントの残高はひと目でわかります。トークンをウォレットに貯めておけば店舗での仮想通貨払いに使えますし、イーサリアム(ETH)に交換して仮想通貨取引所に持ち込み、米ドルやユーロや日本円など法定通貨に交換することもできます。お店側も、ポイントの代わりに仮想通貨を送金すれば、「もれなく1%をキャッシュバック」とか「抽選で100名様に10%キャッシュバック」のような特典の付与が簡単に行えます。

自社ポイントを発行して管理する手間もコストもかかりませんし、法定通貨(円の現金)を口座振込や定額小為替や現金書留で送金するのと比べると手数料は格安です。またDigitize Coinで決済する時、消費者から一定の手数料を徴収することもできます。

金融系の仮想通貨を構想し「おつり」に着目

Digitize Coinの開発のトップは、IBMやオーストラリアの金融機関で金融関係のIT技術者として働いたUmer Aslam(ウマル・アスラム)という人物です。組んでいるのはブロックチェーンの専門家のRodek Ostrowski(ロデク・オストロフスキー)氏で、ともにオーストラリア国籍。オフィスはシドニー近郊とシンガポールにあります。

Umer Aslam氏は大学入学前の若い頃に外食店や食料品店で働いていた経験があるからなのか、金融系の仮想通貨を模索して思いついたのが「おつり」でした。プロジェクトにはスポンサーとしてドバイの企業などが出資しています。

Digitize CoinはイーサリアムベースのERC20トークンで、発行上限枚数は2億DTZです。まず2018年2月にエアドロップ(無料配布)が行われました。2018年4月に実施されたプレセールでは10%の2,000万DTZ、続いて5月に実施されたICOトークンセールでは50%の1億DTZが発行されました。購入可能通貨はイーサリアム(ETH)のみで、交換レートはともに1DTZ=0.0002ETHでした。現状では仮想通貨取引所にまだ上場していません。

世界から「おつり」は消えつつあるのが現実

おつりを仮想通貨で受け取る「Digitize Coin」Digitize Coinは5月のICO後、4~6月期に仮想通貨取引所への上場が承認され、調達した資金でプラットフォームの開発を行い、2019年に入ると「おつりを仮想通貨化する」サービスを本格的に開始するというスケジュールが予定されていましたが、いまだ上場せずロードマップ通りに進まなくなっています。ツイッターのフォロワー数が1万6,000人以上いると言っていたのに、なぜうまくいかないのでしょうか?

日本は「現金王国」です。それはニセ札やニセ硬貨の事件が非常に少なく、日本のお札や硬貨が国民から信用されているからです。しかし海外旅行に行ったことがある人はわかると思いますが外国は違います。

たとえば中国・北京にあるデパートで買物して、VISAやMASTERなど国際的に通用するクレジットカードで決済したら支払いはすぐに終わりますが、毛沢東の肖像が印刷された人民元の紙幣を渡すと、店員はどこかに行って数分間、帰ってきません。何をしているかというと、判定機にかけてニセ札ではないか入念にチェックしています。

東京の銀座のデパートで、お客さんを待たせて福沢諭吉の1万円札を判定機にかけることは、まずないでしょう。最近の中国ではQRコードでスマホ決済するキャッシュレス化が進んで、デパートでも普通のお店でも人民元のお札やコインは使われなくなってきました。ヨーロッパのユーロの紙幣は日本の印刷技術もとり入れて偽造できないほど精巧につくられていますが、アメリカでは素人には見抜けない精巧なドルのニセ札がたびたび発見されています。

現金王国の日本は小さな商店や飲食店だけでなく、外食チェーン大手でもコスト負担を避けて利益を確保するために「現金のみ」がまだあります。「クレジットカードOK」の店でも手数料の支払いを嫌がって店員が「現金歓迎、カード敬遠」の態度を示したり、カード会社との契約に違反する行為ですがカード払いだと請求額を上乗せしたりします。そんなキャッシュレス化が中途半端な「半キャッシュレス」の状態なのが日本です。

QRコードのスマホ決済が普及したGDP世界第2位の中国ではおつりの小銭を受け取ることはほとんどなくなり、クレジットカードが普及したアメリカも同様です。そのように世界から「おつり」が消えつつある中、Digitize CoinにとってGDP世界第3位の日本市場は「おつりとして小銭をよくもらう半キャッシュレスの国」なので、世界に残されたきわめて有望なマーケットと言えます。

Digitize Coin(デジタイズ・コインの問題点

そもそもDigitize Coinの構想を思いついたきっかけはオーストラリアで実施されたアンケート調査で、回答者の50%以上が「小銭を持ち歩くことを好まない」と答え、80%が釣り銭を交換できるサービスに興味を示したそうです。どこかのシンクタンクの計算なのか、「小銭を持ち歩くことによる経済損失は年平均60豪ドル(約5,000円)」というデータまで示しました。

しかし人口約2,500万人で治安が良く、お札や硬貨が信用されているオーストラリアで得られた統計データは、人口約14億人でニセ札が横行する中国やアメリカでは通用しません。しかも人口3億4,000万人のユーロ圏に次ぐ人口1億2,700万人の有望市場の日本で、Digitize Coinの営業責任者が来日して流通や外食の企業にセールスプロモーションをして回った形跡は全くありません。オーストラリア限定のローカル仮想通貨に徹するならともかく、全世界を相手にICOを実施しながらこれでは、南半球のオージー気質なのかどうか知りませんが、のんびりしすぎてやる気を疑われてもしかたありません。

技術的に複雑で、ホワイトペーパーが難解な専門用語がいっぱいの仮想通貨プロジェクトが多い中、Digitize Coinの「おつりを追放する」という目的は子どもでもすんなり理解できるほどにシンプルですが、わかりやすいからこそ「アイデアがいい」と支持が一時的にパッと広がっても、自分はどうなのかと考えた時に「おつりなんて、もらうか?」「小銭はわずらわしいか?」「やっぱりいらない」とあっさり判断されてしまう怖さもはらんでいます。

「発想は面白かったけれど、いろいろあって成功しなかった」という例は、世界のどこに行っても、どこの誰でも身近で、掃いて捨てるほど知っています。時代を先取りしすぎてもうまくいきませんが、時代遅れの「独自の戦い」はもっと、うまくいきません。