2017年9月、消費者庁は「『仮想通貨に関するトラブルにご注意ください!』の公表について」を発表しました。最近、仮想通貨に関する投資をめぐったトラブルが多発していることを受けての注意喚起です。今回、消費者庁、金融庁、警察庁が合同で発表したトラブルに関する内容には、仮想通貨の概要に関するウェブサイトの案内や相談窓口の紹介、これまでのトラブル相談事例や注意すべき点などがコンパクトにまとめられています。

本格的に国が仮想通貨のトラブルに関する啓発活動を始めたのは、仮想通貨にまつわる詐欺や悪質商法が後を絶たず、さまざまなところでトラブルが発生しているからです。この記事では、ここのところ増え続ける仮想通貨のトラブルを事例を交えながらご紹介します。

なぜ仮想通貨は”トラブルの温床”なのか

急激な相場の値動きで莫大な利益を手にした人が出た仮想通貨の世界ですが、裏側では投資に絡んで大きな損失を出したり、詐欺や事件、トラブルに巻き込まれて資産を失ったりと、ネガティブな情報も次々と聞こえるようになりました。「仮想通貨は怪しい」「仮想通貨は損をする」といった人のなかには、そのようなトラブルにばかり目がいってしまい、仮想通貨とは何かという基本的な理解が不足しているケースも少なくありません。

まず、仮想通貨とは、いま私たちが「お金」と聞いて思い浮かべる日本円、つまり1万円札や500円玉のような実体のあるものではないという点が大前提です。日本円のような国内で流通している現金のことを法定通貨と呼びます。その国の法律によってお金としての価値を与えられ、保証されているわけです。

一方、仮想通貨には価値はある者の実体がありません。それに、国の法律で価値の保証もされていません。インターネット上で取引される電子データに過ぎず、政府や公的機関といった裏付けがないものです。

日本円や米ドルといった法定通貨にも為替相場の変動はありますが、仮想通貨の相場の乱高下は振り幅が非常に大きく、急激な下落の際には巨大な損失が出るおそれもあります。また、すべてインターネット上で取引が完結するため、ハッカーによる攻撃で仮想通貨が大量に流出するなどのセキュリティ面でのリスクも踏まえて取引する必要があります。

こうした仮想通貨そのものが持つ特徴に加えて、新興して間もない業界だけあって、トラブルにつながるような詐欺や悪質商法が横行しているのが現状です。まず、2018年初めに世間を揺るがせた仮想通貨取引所の大量流出事件のポイントを学んでいきましょう。

取引所から大量流出の罠

2018年1月、仮想通貨取引所コインチェックから約5億2300万ものNEMが流出した事件は、メディアで大きく取り上げられました。金融庁は1月と3月に、運営会社に対して業務改善命令を出しています。

これほど大量のコインが流出した原因は、社内パソコンのウィルス感染でした。社員宛にマルウェア付きのメールが送られ、感染した社内ネットワークに侵入され、仮想通貨取引所のアカウントが使う秘密鍵が盗まれたのです。流出したNEMの保有者はおよそ26万人。3月に入ると、運営会社から返金補償が実施されました。日本円に換算される返還額はおよそ600億円にもなります。

コインチェックを巡る事件は、仮想通貨取引所のセキュリティに対する不安を増大させました。前年の年末には「億り人」ブームで湧いたマスコミも、一斉に仮想通貨の取引を疑問視する姿勢に変わり、果たして投資の心得のない初心者が仮想通貨の売買をすることへの問題提起にもつながっています。仮想通貨はトラブルと隣り合わせ、といったような、間違った認識が広まってしまったと言えます。

仮想通貨セミナーの危うさ

これまでのお金の常識では捉えきれない仮想通貨を理解しようと、セミナーへの参加を考えた人もいるかもしれません。しかし、仮想通貨セミナーでトラブルが多発していることをご存知でしょうか。実際、仮想通貨セミナーの多くは「不労所得」や「先行販売」「誰でも儲かる」といった大げさなキャッチコピーが並び、冷静な人から見ると、トラブルが起きそうな雰囲気を感じ取れると思います。しかし、その耳ざわりが良いキャッチコピーを信じる人が一定数存在するので、そこからトラブルにつながってしまうのです。

仮想通貨セミナーでは基礎知識や取引方法、売買のタイミングの見極め方などを教えながら、最終的には教材を売りつけたり、有料セミナーへの強引な勧誘を受けたり、ICOへの参加を促されるなど、無料や格安セミナーの裏には参加者から高額な商品やサービスを売りつける意図があります。とくに、セミナー主催者が独自に発行したコインを販売する手法が多く、実際には価値がほとんど出ないため二束三文の仮想通貨をつかまされてしまうのです。当然、後日トラブルとなることは明白で、資産を大きく失う人も出てきます。

セミナー事例1 マルチによる販売
悪質なセミナーでトラブル発生件数が多いのは、仮想通貨のマルチ商法です。まず、参加者は主催者が勧めるコインを購入します。保有して売却益を待つのではなく、他人に販売をして手数料を受け取るという仕組みです。これはマルチに当たりますが、「紹介特典」や「お友達キャンペーン」といったやわらかい表現になっているとつい騙されてしまう人がいます。

こうした紹介制度によってマージンを手にする仕組みは先行者ほど有利に利益が出るため、末端に行けば行くほど利益どころかコインそのものが消えてしまう可能性が高くなります。こうしたマルチに誘い入れる仮想通貨セミナーで出される情報は正確なものかどうかネットで調べればかなりの割合で回避できるはずです。トラブルを防ぐには、まず疑ってかからなければなりません。

セミナー事例2 団体による権威付け
仮想通貨に関する協会や団体で活動して、相談業務や取引の代行をおこないお金を集めるやり方も、トラブルが多い案件です。高額な手数料を請求したり、仮想通貨を購入代行したと見せかけたりした後、一定のお金が集まると消えてしまうケースが目立ちます。この場合も、疑わずに信じてしまう人がいるため、トラブルに繋がります。

人はつい「○○協会」のように団体組織の名称を見ると、信頼してしまう傾向があるので、トラブルを防ぐためには、たとえ主催者が団体であっても本当に実在している組織なのかチェックしておくことが大切です。

セミナー事例3 悪質な商材を販売
セミナーに参加すると、あの手この手で商材を売りつけられます。内容はネットですぐに手に入るような中身の薄い商材なのに、数万円するような高額な値段が付いています。仮想通貨に関する基礎知識はインターネットで十分に身につけることができます。もしさらに理解を深めたいからとセミナーに参加するにしても、基本的なポイントは押さえてからでなければ、こうした中身のない商材を販売されても判断が付かないかも知れません。高額で、中身がないものを買わされたということで、トラブルにつながることも多いです。

このように、仮想通貨を取り巻く環境は一部で悪化しているので、トラブルも多発しています。詐欺や悪質商法につながるセミナーに参加しないためにも、インターネットや書籍で初心者に必要な知識を学んでからでも遅くはありません。

海外でのトラブルは?

急増する仮想通貨のトラブルと注意点海外でも日本と同様のセミナーにまつわる詐欺や悪質商法が増えています。さらに、仮想通貨取引所のトラブルが多いのが海外の特徴です。

日本国内ではコインチェックの大量流出事件が目立つ程度ですが、たとえば海外の取引所のなかでも知名度の高いバイナンスではフィッシング詐欺の急増で被害が出ています。フィッシング詐欺とは、実在の企業やショップによく似たサイトを作り、流入してきたユーザーに個人情報を登録させて、口座から資金を盗み出す手法で、以前からおこなわれています。トラブルに合っても最初は気付きにくいのが特徴です。

バイナンスのケースでは、検索結果の上部に表示される広告欄からバイナンスに入ると、そのサイトが偽サイトだったというものです。普段、大手の企業やお店を検索するとき、その社名や店名の広告をよくクリックしてサイト閲覧をしている人は本物の公式ホームページなのか、要注意です。

その仮想通貨は本当に存在する?

仮想通貨のトラブルを避けるには、まず、取引しようとしているコインが本当に実在しているものかを確かめましょう。実体のないコインを作って詐欺に遭うことのないよう、ネットや書籍で得た情報を元にチェックしてください。

また、安易に仮想通貨セミナーに参加するのではなく、基礎的な知識を身につけてからにすると、自分自身の判断力も高まりますので、トラブルに合う可能性も低くなります。ただ、詐欺的なセミナーが横行しているのは事実です。トラブルの事例を勉強したり、SNSの情報を参考にしながら自分の目で判断するようにしましょう。