仮想通貨リップル(XRP)以上にリップル社の国際送金ネットワーク「RippleNet」が注目を浴びている

リップル社が発行する仮想通貨リップル(XRP)は、ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)と並んで、日本でもっとも知名度が高く人気のある仮想通貨の銘柄として知られています。リップル(XRP)の価格は2017年12月前半までは20円前後で推移していましたが、12月後半から急騰を始めて2018年1月初旬には400円という過去最高値をマークしました。

その後、1月26日に「NEM大量流出のコインチェック事件」が発生したため、カウンターパーティーリスク(取引所リスク)と世界的な仮想通貨規制強化の影響を受けて、100円を割り込む暴落に見舞われました。7月現時点のXRP価格は50円前後で過去の高値と比べると物足りないものですが、リップル社・XRPに関連する好材料のニュースは多く、金融機関の送金業務との技術提携に期待が集まっています。

リップルについて言及しているニュースやブログの記事では、「リップル社」と「仮想通貨リップル(XRP)」を混同しているケースもあるのですが、両者は別物なのです。リップルの国際送金技術(RTXP利用のRippleNet)は高く評価されていて金融機関(銀行)・企業の採用事例や実証実験も増えているのですが、この国際送金技術のシステムは仮想通貨リップル(XRP)を送金するためだけのものではありません。

RippleNetはリップル(XRP)の送金にも利用可能ですが、基本的に銀行・企業のニーズの大半は「異なる通貨の為替交換を同時に行ってくれる高速・低コストの国際送金手段」の方にあり、リップル社は仮想通貨XRPとは別にその国際送金ニーズを埋めるビジネスを展開しているのです。

リップル社の「価値のインターネット(IoV)」を加速させるRippleNet利用の国際送金プロダクト

リップル社はRTXP(リップル・トランザクション・プロトコル)の国際送金ネットワークRippleNetで、「異なる通貨間の価値の高速移転」を可能にしようとしています。異なる決済手段の高速で安価な価値の移転は、リップル社のスローガンである「価値のインターネット(IoV)」にもつながっていて、国際送金の実証実験で次々と成功の結果を出しています。

5月に三菱商事・三菱UFJ銀行は、リップル社の金融機関向け国際送金プロダクト「xCurrent」を使って、タイ・シンガポール間の国際送金実験(シンガポールドル建て)に成功しています。6月にはイギリスの外貨交換・国際決済プロバイダーのCurrencies Direct社も、リップル社が提供する国際送金プロダクト(送金業者向け)の1つ「xRapid」のプラットフォームを利用して、国際送金の実証実験で良い結果を出しています。

リップル社は、独自の非PoWのブロックチェーン(レジャーとも呼ばれる)を基盤とした国際送金ネットワークの「RippleNet」を保有しています。RippleNetはPoC(Proof of Consensus)の一種とされる「RPCA(XRP Consensus)」の中央集権的なコンセンサスアルゴリズムによって、選ばれた信用力の高いバリデーター(大手企業などの検証者)がブロックを効率的に承認しています。

RippleNetやリップル(XRP)は、ビットコイン(BTC)のPoWに基づくマイニングよりも、ブロック承認にかかる時間が短くてコスト(電気代)が安いというメリットがあるのです。リップル社に関連するニュースには「企業・銀行との国際送金業務に関わる技術提携」が多いのですが、企業・銀行がリップル社と送金業務で提携する時にはこのRippleNetに参加する形になります。

xCurrent・xRapid・xViaについての概略:RippleNetを活用するリップル社の3つのプロダクト

RippleNet利用の“xCurrent・xRapid・xVia”の送金プロダクトの解説リップル社が企業・金融機関(銀行)と技術提携するために準備しているのが、国際送金ネットワークのRippleNetに接続できる3つのプロダクト(製品)です。リップル社が提供する3つの送金プロダクトは、「Xcurrent・Xrapid・Xvia」であり、それぞれに顧客ターゲット層やプロダクトの機能・特徴の違いがあります。

xCurrentは金融機関(銀行)向けの国際送金プロダクトで、どんなに遠く離れた国・地域であっても「数秒間での確実な国際送金・決済」を可能にしてくれます。xCurrentの優れた特徴として「送金プロセスの明確化・可視化」があり、金融機関間でリアルタイムのメッセージや情報確認を行うことができます。xCurrentはただ高速で安価な国際送金ができるだけではなく、「送金前の金額・口座の確認+送金後の金額・着金の確認」を行えるので、金融機関も安心して採用しやすいのです。

送金業者向けのxRapidは、リップル社が提供する3つの国際送金プロダクトの中で、唯一「仮想通貨リップル(XRP)」を介在させる送金手段になっています。xRapidは高額な外貨を送金したい目的に適している送金プロダクトであり、送金したい外貨の金額が大きくなっても「流動性コスト(送金額に応じた外貨の準備)」を抑えられるメリットがあります。

FX業者や為替交換業者といった頻繁に大金を送金したい送金業者が、xRapidを採用する理由も、リップル(XRP)をブリッジ通貨として活用することで流動性コストを下げられるからなのです。支払いプロバイダーやその他の一般企業向けのxViaは、「請求書などの容量のあるデータ」を送金時に簡単・安価に添付することができるプロダクトで、シンプルなAPIの形で提供されるため誰もが使いやすい汎用性があるとされています。

xCurrentの導入例と金融機関がRippleNetを利用することの影響

xCurrentは金融機関向けの国際送金プロダクトであるため、導入例には銀行(金融機関)が多くなっているのですが、特に注目されたのが国家の通貨発行権を保持している「中央銀行の導入例」でした。2月、リップル社はサウジアラビアの中央銀行(SAMA)に、xCurrentを利用した「国内銀行間の送金技術」を提供する契約を交わしており、順調にxCurrentの運用が進めばサウジアラビア国内の銀行の送金インフラとしてRippleNetが浸透していく可能性がでてきています。

中央銀行の国際・国内の送金ネットワークとしてRippleNetが使われることは、中央銀行口座と預貯金のやり取りをする全ての国内銀行がRippleNetに接続することを意味するので影響は大きくなります。1月には、スペイン最大手のSantander銀行が、xCurrentを利用した「一般消費者向けのモバイル決済アプリ(イギリス・スペイン・ポルトガル・ブラジルの4ヶ国で配布)」のリリースを発表しており、銀行がブロックチェーン技術を基盤とするアプリを提供するのは初めてになります。

日本国内におけるxCurrent の導入で最もインパクトが大きかったのは、SBI Ripple Asia社による「次世代送金インフラ整備網」を目的とした「内外為替一元化コンソーシアム」の計画でしょう。内外為替一元化コンソーシアムというのは、FX投資にも影響をもたらすプロジェクトであり、「国内為替と外国為替の価格の一元化」を目指すものです。

内外為替一元化コンソーシアムが実用化されれば、365日24時間、リアルタイムでの送金インフラが整備されるだけではなく、「国・地域ごとの為替価格の差異」が修正されるので、よりフェアな条件でFXトレード(為替取引)ができるようになるのです。内外為替一元化コンソーシアムには、三菱東京UFJ銀行やみずほFGなど61行もの銀行が参加していて、為替市場改革のうねりが生まれています。

xRapidの導入と仮想通貨XRPの価格上昇:「リップル社の企業・銀行との提携」に基づく経営戦略

xRapidは仮想通貨リップル(XRP)を「ブリッジ通貨(異なる通貨間の媒介通貨)」として介在させる送金プロダクトであり、高額の送金を頻繁に実施する送金業者などに適した技術とされています。xRapidを利用した異なる通貨間の「クロスボーダー決済」に成功した世界初の事例は、2017年10月のCuallix社による米国(米ドル)からメキシコ(ペソ)への送金実験とされています。世界の5大送金企業の内の3つの企業が、リップル社の仮想通貨XRPをxRapid経由で会社の支払い・送金のシステムに採用するというニュースが流れた時には、XRP価格が一時的に急騰しました。

RippleNetに接続する送金プロダクトの「xCurrent・xRapid・xVia」のうちで、実際に「仮想通貨リップル(XRP)」がブリッジ通貨や直接の送金通貨として使われるのは「xRapid」だけであることは理解しておく必要があります。xCurrentもxViaもリップル社にとって重要な送金技術の製品であることに代わりはありませんが、採用する銀行・企業が増えることでXRP価格を上昇させやすいのはやはり、XRPを直接間接に利用することになる「xRapid」なのです。

リップル社は企業・銀行と提携する経営戦略によって、「ブロックチェーン革命に基づく次世代の金融インフラ・国際送金技術規格の確立」を目指していて、その目標はリップル社の企業理念である「価値のインターネット(IoV)」とも技術的・思想的に整合しているのです。リップル社は仮想通貨XRPやRippleNetによって既存の金融機関を競争で打ち負かして滅ぼそうと考えているわけではなく、むしろ既存の金融機関とタッグを組む形でブロックチェーン革命の国際送金にまつわる生産性を飛躍的に上昇させようとしているのです。

リップル社の誇る「xCurrent・xRapid・xVia」の送金プロダクトによって、「送金速度の遅さと確実性(送金プロセスの明確化)・送金手数料の高さ・送金先での外貨準備による流動性低下・送金ネットワーク接続の標準化」といった国際送金に関する重要な問題が解決に向かう可能性が高まっているのです。