仮想通貨世界最大手のバイナンスのCEOジャオ・チャンポン氏は、8月9日にバイナンスが開発中の分散型取引所のデモプレイ映像を公開しました。バイナンスはかねてから「分散型と中央集権型の取引所は共存していく」という構想を持っており、今回のデモ映像はバイナンスが理想とする未来に一歩近づいた形になります。

分散型取引所は、従来の中央集権型の取引所よりセキュリティが高いと言われており、多くの有識者がその開発状況に注目しています。イーサリアムの創設者であるヴィタリック・ブテリン氏も、従来の中央集権的取引所を批判する発言をし、話題になっています。

開発者側にも注目されている分散型取引所とは、従来の中央集権型の取引所と比較してどのような違いがあるのでしょうか。今回は、分散型取引所と中央集権型取引所の違いを解説しながら、バイナンスが目指す未来についても説明していきます。

従来の中央集権型取引所について

大手仮想通貨取引所のバイナンスが、分散型取引所のデモ映像を公開まず中央集権型取引所について説明していきます。日本でいうと、bitFlyerやcoincheckのような中央管理者を通して仮想通貨の取引を行う取引所を中央集権型取引所と呼びます。現在大多数の方はこの中央集権型取引所を利用しています。

大規模な取引所の場合、それだけ取引量も多く、柔軟に取引をすることができるというメリットがユーザーにはあります。ただし、中央集権型取引所では、ユーザーごとの固有のパスワードである、秘密鍵の管理を取引所に委任しているため、ハッキングに弱いという点と取引所内部の人間がやろうと思えば簡単に顧客の資金を引き出せてしまうという点が懸念されています。

Coincheckが2018年1月に被害にあったNEM流出事件も中央集権型取引所のリスクと言えます。またマウントゴックスのように取引所が何らかの理由で倒産してしまった場合、資産を損失してしまう可能性があります。このように中央集権型取引所は近年そのセキュリティ面での脆弱性が取り沙汰されています。そのリスクを解消するとして期待が集まっているのが分散型取引所(DEX)です。

分散型取引所のメリットとデメリット

次に分散型取引所について解説していきます。分散型取引所とは、中央管理者がいなくても仮想通貨の取引が可能な取引所のことを言います。自ら秘密鍵を管理しながら取引を行うため、ハッキングを受けるリスクを軽減させることができます。また自ら秘密鍵を保有するため、身分証明の必要がなくなり、自由な取引が実現するようになります。

ただし、現状の分散型取引所はまだまだ仮想通貨の出来高が少なく、注文のたびに手数料が発生することや、出来高が少ないことにより思った価格で約定しないと言ったデメリットも考えられます。また分散型取引所のプラットフォーム上の通貨が基軸通貨となるのが一般的なため(バイナンスでいうBNBなど)、ビットコインのような法定通貨を基軸とした取引ペアではないことが多いです。

現在の主要な分散型取引所は、EtherDelta、Openledger、Waves Lite Clientなどです。日本国内ではまだ馴染み深くない取引所ですが、今後分散型取引所の重要度が注目される中で、これらの取引所も存在感を強めています。分散型取引所はまだまだ出来高などが少ないというデメリットがあるという点はお伝えしましたが、現状世界取引高首位のバイナンスが分散型取引所になると、このデメリットも解消され、市場にとっては大きなイノベーションとなることが期待されているのです。

バイナンスが目指す分散型取引所への取り組み

バイナンスが分散型取引所の発足に取り組むと発表したのは2018年3月のことです。足固めとして、独自のパブリックブロックチェーンである「Binance Chain」を開発中です。Binance Chainにはバイナンスが発行する仮想通貨のBinance Coin(BNB)が基軸通貨となる可能性が高いので、Binance Chain の発表後、BNBの価格が高騰しました。

今回のデモプレイはラフなものであると、CEOのジャオ・チャンポン氏は発言していますが、トークンの発行、上場、取引についてはすでに原型は出来上がっているようです。具体的な立ち上げの時期などはまだ明言されていませんが、バイナンスは8月1日に分散型ウォレットである「トラストウォレット」の買収も発表しており、着々と分散型取引所の立ち上げを進めています。さらに7月にはマルタ島にて、世界初となる分散型銀行「Founders Bank」の設立も計画されており、バイナンスは出資面で協力していることが明らかになっています。

有識者による分散型取引所への考え方について

注目されている分散型取引所とは?仮想通貨の有識者の中でも分散型取引所に関する考え方は様々なものがあります。イーサリアムの創設者であるヴィタリック・ブテリン氏は、中央集権的取引所を厳しく批判する立場を取っています。ブテリン氏は仮想通貨と法定通貨との取引に、中央集権的サービスを通す必要があるので、完全に分散化させることは困難であると踏まえた上で、分散化に向かって進んでいくことでオープン性及び透明性というブロックチェーンの価値を高めることができると発言しています。

また、法定通貨から仮想通貨への変換ということも含めて、中央集権的取引所が無くなることはないと予想している一方で、今後も分散型取引所が増えていくだろうと発言しており、仮想通貨市場全体にとっては良い影響を与えるというスタンスを持っています。

次に、セキュリティソフト大手マカフィーのCEO、ジョン・マカフィー氏は8月8日に「分散型取引所は未来であり、現実になろうとしている」とTwitterで発言しています。同氏はかねてより、機能的な分散型取引所が台頭するまで、取引所閉鎖のリスクに晒され続けなければならない、という中央集権型取引所の懸念点について言及しており、分散型取引所が正しい方向に発展することに前向きな姿勢を示しています。

分散型取引所の成立により、仮想通貨はより開かれた取引が可能に

中央集権的取引所と分散型取引所の違いについて解説していきました。分散型取引所は中央集権型取引所が抱えるセキュリティ面のリスクを解消してくれる可能性がある技術として、今後も注目が集まることでしょう。

現在の分散型取引所は出来高が少ない新興の取引所であることが多く、まだまだこれからといったところですが、バイナンスのような大きな取引所が分散型取引所の立ち上げに着手しているというのは、市場にとっては大きなインパクトになるでしょう。

ただし、分散型取引所もメリットだけではないという点には注意が必要です。2018年7月には分散型取引所のBancorがセキュリティ侵害によって20億円の盗難被害を受けています。またEtherDeltaも2017年にフィッシング詐欺によって被害を受けています。

中央集権型よりも安全面は高いと言われてはいるものの、課題は山積していると言わざるを得ません。このような点をバイナンスが先陣を切って取り組んでくれることが期待されています。ブロックチェーンにより、開かれた仮想通貨取引ができる環境をバイナンスは実現しようとしています。

来るべき分散型取引所の時代に備えて、我々ができることは、分散型取引所と中央集権型取引所のメリットやデメリットについて把握しておくことです。二種類の取引所が選択できるようになる未来に備えて、あらかじめその特徴を押さえておきましょう。分散型取引所については、当面バイナンスのBinance Chainや分散型銀行Founders Bankの動きに注目が集まるでしょう。