仮想通貨の普及に伴い、詐欺の被害はどうしても切っては切り離せません。8月17日にイギリスの金融行為規制機構(FCA)は、イギリス人投資家を標的にした仮想通貨投資詐欺が増加していると警告を出しました。FCAは、詐欺師は有名人の画像や見栄えのいいウェブサイト、住所がロンドンなどの偽装で投資家を引きつけようとしている、と詐欺の特徴まで明記して警告しています。

詐欺企業の手口として、ソフトウェアを使って価格と投資収益を操作することがあるとしています。また実在しない仮想通貨、いわゆる詐欺コインを購入させることもあります。ユーザーのオンライン口座を突然閉鎖し、送金を拒んだり、送金する前にさらなる金額を要求したりするという手口も知られています。

こういった仮想通貨詐欺の手口は海外と日本で比較しても大きな差はなく、似通った手口となっています。今回は最近世界で起きた仮想通貨詐欺や訴訟についてまとめていきます。詐欺の手口を把握し、安全な仮想通貨投資をしましょう。

詐欺の警告をした英金融行為規制機構は仮想通貨自体の規制はしていない

仮想通貨の訴訟事情と詐欺についてイギリス金融行為規制機構は仮想通貨自体の規制はしておらず、仮想通貨取引所及びブローカーはFCAの規制下にはないと説明しています。ただしFCAは、現状先物や差金決済取引、オプションなどのデリバティブ取引は規制しています。FCAは投資家の安全を守るために、取引を避けるべき企業の一覧である「ScamSmart」リストを作り、チェックするように促しています。しかしこういったチェックをかいくぐるようにFCAの認可を受けたと虚偽の主張をする企業も出てきており、こういった企業に対して過去2度にわたり警告しています。

FCAは加えて、こうした詐欺企業に投資した人はさらなる詐欺に巻き込まれる可能性もあると説明しています。詐欺にあったお金を取り戻す、という旨の詐欺や、手数料を払えば投資を買い戻すというもののように前の詐欺と関係している場合もあると報告しています。イギリスではこのFCAの警告の前に、警察当局が仮想通貨詐欺による被害額が2ヶ月で約250万ドルになったとする報告をしており、イギリスでは今後も詐欺対策が整備されていく予定です。

今年4〜6月期に発生した仮想通貨関連の詐欺被害額は約230万ドル

サイバーセキュリティ大手のカスペルスキーは、今年の4月から6月期に発生した仮想通貨関連の被害額は約230万ドルと報告しています。中でもツイッターを通じた仮想通貨の無料配布を語る詐欺が増えており、詐欺に関する対象も遅いとして非難の対象となっています。

こうした仮想通貨の無料配布はフィッシング詐欺と言われ、人気通貨の無料配布をうたってネット利用者を騙し、個人情報を盗むという手口です。前述の通り、こういった手口はツイッターが最も多いという報告があり、カスペルスキーは仮想通貨関連の詐欺ボットネットは、ツイッター上に少なくとも1万5000ボットあるという調査報告も出しています。

また仮想通貨での資金調達、ICOの初期フェーズにおいて、投資家にトークンを買い占めさせる詐欺も発生しています。仮想通貨の中でも詐欺師が好むのはイーサリアムであるという報告もなされており、これはICOのプラットフォームに使われるのがイーサリアムであることが多いからとされています。日本でもツイッターを用いたICO詐欺や、無料配布などのフィッシング詐欺は散見されます。これに関してはユーザーひとり一人がリテラシーを高く持つというのがシンプルながら最も効果的な対策方法です。

SIMスワップ詐欺で仮想通貨の盗難にあった男性が通信会社を提訴

アメリカでは8月15日、投資家のマイケル・テルピン氏が大手通信会社のAT&Tに対して2億2400万ドルの訴訟を起こしました。テルピン氏はAT&Tがハッカーに自身の電話番号のアクセスを供与した結果、大量の仮想通貨が盗まれたとしています。テルピン氏は、ビットコイン関連のエンジェル投資家グループとデジタル通貨関連ファンドの共同創始者として業界では一定の地位を持つ人物です。17年6月と、18年1月の7ヶ月間で2度のハッキング被害にあい、2400万ドル相当を失ったと主張しています。

テルピン氏をハッキングした犯人はSIMスワップという手口を使ったとされています。通信業者を利用して、標的の電話番号をハッカーが持つSIMカードに移転させるという行為です。電話番号を入手してしまえば、ハッカーは標的のパスワードをリセットし仮想通貨取引所のアカウントにハッキングが可能になります。

テルピン氏はAT&Tの従業員がハッカーと共謀し、SIMスワップ詐欺を行なったとしています。このようなSIMスワップを使ったハッキング被害は、仮想通貨を大量に保有している人物が狙われる可能性が高く、一般の投資家がピンポイントで狙われる可能性は低いですが、電話番号ひとつで様々な個人情報が判明してしまう昨今、高いセキュリティ管理が求められています。

仮想通貨投資で盛り上がりを見せるオーストラリアでも詐欺が多発

ギリスの金融当局は投資家を対象とした仮想通貨詐欺の増加を警告ブロックチェーン企業を多数誘致しており、仮想通貨大国として舵取りをしようとしているオーストラリアでも仮想通貨の投資詐欺が急増しています。オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)は2018年7月に注意を呼びかけています。ACCCの詐欺相談窓口には月間平均430万ドルの被害が届けられているとのことです。2018年上半期に寄せられた相談件数は約1800件に上るという報告があり、上半期だけですでに昨年の被害総額の84%に達しています。主な被害者層は45歳から65歳までが半数以上を占めており、投資や情報リテラシーの弱い層が標的になっているケースが顕著です。

もともとACCCに寄せられる詐欺の多くは株や不動産、先物取引が多かったとのことですが、ここ1年で仮想通貨関連の詐欺は大幅に急増しています。仮想通貨投資が盛り上がりを見せているオーストラリアならではの詐欺とも言えますが、こういった人気の高まりに乗じた詐欺師に話を鵜呑みにすれば瞬時にお金を盗まれてしまうだろう、とACCCのリッカード副院長も注意喚起しています。

日本国内にも依然として仮想通貨詐欺は流行している

日本では2018年始めに比べて、仮想通貨投資の熱は落ち着いてはいますが、依然として投資詐欺が流行しているのは事実です。2018年7月には国内大手取引所のbitFlyerが、同社の関係者を装ってサービスの確認コードを聞き出す不審な電話が確認されたとしてツイッター上で注意喚起を行っています。またCoincheckも同様に、ログインパスワードや認証コードを聞き出そうとする不正な電話があったことを報告しています。通常仮想通貨取引所が電話で個人情報に関する問い合わせをすることは一切ないので、ユーザーは騙されないように引き続き注意が必要です。

このように全国各地で確認されている仮想通貨詐欺ですが、その実態や手口は意外とアナログであることが多いです。フィッシング詐欺やICOなど、突拍子も無い儲け話には乗らないことが大事という点は、仮想通貨に限った話ではありません。現在ではハードウェアウォレットも充実してきており、仮に資産を預けている仮想通貨取引所がハッキングを受けたとしても自分の資産を守る術はあります。SNSでも溢れている明らかに不審な儲け話には乗らぬよう、個々人のリテラシーの向上が求められています。