2017年に国税庁より公表されている、仮想通貨の課税上の取り扱いに関しては仮想通貨投資家には評判が悪い話です。このため2018年4月に「暗号通貨に関する租税制度研究会」(以下「研究会」と略)が、仮想通貨の税制について大きく分けて5つの提言を行いました。仮想通貨の課税についてのまとめをご案内していきます。
仮想通貨に対する総合課税から申告分離課税への変更
1つ目は、最も不満が大きい点が、仮想通貨は株やFXのような申告分離課税ではなく総合課税で課税される点です。株・FXはそれぞれで生じた所得に対して、所得税15.315%・住民税5%が課税されるため、発生した所得に対する税額がわかりやすく計算されます。仮想通貨以外の金融所得に対してはこのように他の所得とは切り離して課税される国が多く、仮想通貨に対しても同様に計算する国もあります。
しかし仮想通貨に課税される総合課税となると、給与所得など他の所得と合算した上で、所得税は5.105%を最低税率として、課税所得金額の大きさに応じて所得税率も大きくなります。仮想通貨で億単位で稼ぐと課税税率が50%台に達してしまうのは、株・FXに比べ著しく不利であり、仮想通貨利用を抑制する効果も考えられます。研究会の意見においても、仮想通貨取引において仮想通貨利益に対して申告分離課税を採用すべきとの提言がされました。なお、株・FXでは、仮想通貨に対する課税と異なり生じた損失を3年間繰り越すことも認められています。
仮想通貨の課税においても同様に3年の繰越損失を認めるべき、と言う意見も出されました。この点は国会でも取り上げられたのですが、財務省側の答弁によれば仮想通貨の課税による申告分離課税の採用にあたっては、仮想通貨交換業の業界全体における体制整備も必要とされており、実現には時間がかかると考えられます。またこの提言では、仮想通貨はFXと同様に海外の仮想通貨交換業者を通じて取引した場合は申告分離課税の対象とせず、総合課税の対象とするような形になっています。
仮想通貨同士で交換した段階では課税しないよう要望
2つ目は、仮想通貨取引の課税の問題として、仮想通貨を円に換えた場合だけでなく、仮想通貨を他の仮想通貨と交換(例えばビットコインをアルトコインに交換など)、もしくは仮想通貨で決済(例えばビットコインでビックカメラの家電を購入)した場合にも課税される点が挙げられます。所得税や住民税の納税は円で行いますので、例えば40万円の納税が必要な場合でも、仮想通貨や物品に変っているのであれば払えないことも想定されます。相続税であれば物納制度もありますが、所得税や住民税では相続税のような制度化はされていません。
研究会では、仮想通貨を交換した段階では非課税にすべきと提言しました。ただし一旦交換した仮想通貨を円に換えた際には課税されるため、厳密には課税の繰り延べと言うべき話です。例えば、ビットコインを40万円で購入→ビットコインをすべてアルトコインに交換→アルトコインを50万円で売却、というケースを考えます。この場合仮想通貨の所得計算は、アルトコインの売却収入 - ビットコインの取得費 = 10万円となり、収入と経費の仮想通貨が異なりますが、交換した際の課税を円転時まで繰り延べたためです。
住まいの買い替えも本来は課税対象(ただし不動産譲渡は株式と同様に一定税率の分離課税)なのですが、特例により一定の条件を満たした場合は課税を繰り延べることができるよう制度化されています。なおこうした提言の背景には、仮想通貨同士を交換する取引に対して、当局による捕捉が難しいのではないかという問題意識があります。税務調査も国がコストをかけて行うことですので、捕捉の難しい交換取引があると、課税の公平性を損なうのではないかということです。
年間20万円以下の少額非課税制度は仮想通貨決済を想定
3つ目は、課税の繰り延べだけでなく、年間20万円であれば少額非課税制度導入も提言しています。20万円というと現在でも非課税というイメージを持たれている方もいるでしょうが、これはあくまでも年末調整が行われる会社員に対する、確定申告不要制度の話です。住民税の計算上は20万円以下であっても申告対象ですし、勤務先で年末調整が行われない自営業者や専業仮想通貨トレーダーは確定申告対象です。
研究会が提言したのは、誰であろうと20万円以下の仮想通貨取引は完全に非課税にする制度であり、株式取引のNISAに近い形です。(NISAは所得基準で非課税ではなく、投資金額の上限を定めていますが)この提言は海外仮想通貨に対する課税制度で導入されている制度を参考にしたと見られ、この少額非課税制度により仮想通貨決済を促進することを狙いとしています。
このため仮想通貨トレーディング目的の所得は対象外として、仮想通貨での物品購入など決済目的のみを対象とすることが考えられています。ただ両者の判別が難しいケースもあり、仮想通貨取引目的の制限に関してはあくまでも可能であればという程度での提言です。
取得費が不明な場合でも、売却額の5%を差し引ける概算取得費制度の導入
4つ目ですが、ここからはあまり語られてなかったマイナーな論点になりますが、こちらも仮想通貨に対する課税が不動産の譲渡と比べると不利な点のため、変更が提案されました。相対取引による仮想通貨取引では、仮想通貨の取得費がわからないことがあります。仮想通貨の取得費が計算できるのであれば、雑所得の計算上必要経費として差し引けるのですが、不明な場合は仮想通貨の取得費が差し引けません。
不動産や株の譲渡では、取得費が不明な場合でも収入の5%を概算取得費として差し引ける制度があり、少ない額とはいえそれと比較するとやや不利に見えます。研究会では、仮想通貨の所得計算においても同様に、5%概算取得費制度を課税税率として導入すべきという提言がされました。
マイニングによる仮想通貨取得にも課税せず円転時に繰延
5つ目は、仮想通貨の1つの特徴として、マイニング作業による報酬として仮想通貨が取得できるというものがあります。この取得した仮想通貨は、仮想通貨取得時の時価で収入計上され、マイニング作業の電気代などは必要経費として計上できます。ただマイニングによる仮想通貨取得も円のような法定通貨を利用していないため、仮想通貨同士の交換と同様計算が難しい点があり、また納税資金が必ずしも用意できないという問題もあります。
このため、研究会ではこちらについても仮想通貨を法定通貨に換えるまで課税を繰り延べるよう提案されました。この場合の注意点としては、例えば円転がマイニングの翌年以降になってしまったとしても、かかる電気代も翌年以降に繰り延べて計上するように提案している点です。仮想通貨取引の課税方式が総合課税でなく申告分離課税になり3年間の損失繰越ができれば、電気代が発生した年に計上しても税制上不利にはなりませんが、費用収益対応の観点から考えると好ましいとはいえません。マイニング収益は、複数台・複数人で行った場合の分配の問題もあるため、マイニングを行った時点での収益確定が困難という事情もあります。
海外の制度・他の所得との公平性を意識した提言
国内における他の所得の取り扱い・海外における仮想通貨の取り扱いと比較しつつ、全体的に現状の課税税制を歪みととらえて是正を求めるような提言となっています。1つ目の申告分離課税や三年損失繰越、4つ目の概算取得費制度については導入までに時間がかかると見ていますが、その他の3つは、納税者の納税資金確保や税務当局による取引価格捕捉が難しいものに該当し、早期の導入を求めています。2019年度の税制改正の議論に全てが入るかは難しいところですが、日本における仮想通貨の発展を願っての提言ですので、少しでも進展することを願いたいものです。